レポート「生体認証最前線」−戦国時代を勝ち残るのは誰だ

「手のひら認証」「指先認証」など,金融機関のキャッシュカードのセキュリティ高度化がブームになりつつある感があるが,一部金融機関が実施し始めた独自戦略が顧客の高い評価を得ている。顧客の評価を勝ち取った決め手は,単なる本人識別を超えたプラスアルファのサービス。本日は,そんな「生態認証戦国時代」をリポートする。


日本銀行が導入したのは意表をついた「鼻」認証。ATMの専用センサーに顧客が鼻を近付けるだけで本人識別をするもの。鼻だけでも誤認確率は「100万分の1以下」だというが,一層の確実を期して,補助具として新日本銀行のロゴ入りの「鼻ピアス(ICタグ入り)」を口座開設者に無償で提供,この鼻ピアスを着用の上利用すれば「100%誤認はない」という。中高年の顧客には,「まるで新日本銀行に飼われている牛になったような気分」ということで非常に評判が悪いが,20代の若者にはかなり好評だ。
そしてこの好評を強烈に支えているのが,人気グループ「S○AP」が出演するCM。同行ロゴ入り鼻ピアスをした5人のメンバーが大ヒット曲の替え歌「世界で一つだけの鼻」を高らかに歌い上げる。
♪世界で一つだけの鼻 ひとりひとり違う鼻腔を持つ その鼻を近付けるだけで 一度に百万円まで引き出せる・・・
独自戦略を貫く同行が,生態認証の分野でも展開する思い切った戦略に各行の注目が集まっている。

メガバンクに比較すれば顧客数は少ないものの,富裕層中心の構成となっている大日本信託銀行は,同行ならではの特色を生かした戦略が顧客に好評を博している。
同行の本人認証はその名も「クラブ認証」方式。
同行東京営業部のロビーに足を踏み入れると,和服姿の女性がにこやかに近づいて来る。
「○○様,お帰りなさいませ・・・」
顧客応対ブースに誘導しながら指で顧客の口座番号をブース内の行員に示し,顧客がソファに腰をおろす頃には口座残高,顧客の職業・趣味・嗜好に至るまで幅広い情報が応対する行員の手元に揃っており,おしぼりサービスとともになごやかな会話がスタートする。
「手のひらや指を見ないと本人かどうか分らないというのは,冷静に考えると非常に失礼」(同行首脳)と考えた同行では,本年3月から銀座の一流クラブのママ経験者,ホストクラブの著名ホストなど,顧客の顔・氏名・職業等を瞬時に記憶することを得意とする人材をスカウト,営業店に配置した。これらの人材は猛烈な勢いで顧客の情報を記憶,4ヶ月が経過した現在では,ほぼ100%の顧客の顔の識別が可能となった。
預金を引き出すために来店した顧客も,すっかりいい気分で担当行員との会話を楽しみ,新たな契約が成立するケースも少なくないという。また,行員との会話をより楽しみたい顧客のためには,有料でアルコールやフルーツ・軽食などの提供も行っており,銀行界初の「ボトルキープサービス」(有効期限6ヶ月)も始めている。最近ではこれら飲食物販売額が急速に伸びており,「クラブ愛」の元No.1ホスト,龍ヶ崎新也さん(27)を擁する同行渋谷支店では,月間販売額ランキングで1位を独走してきた毎月分配型投信「グローバル・ソブリン・オープン」を,高級シャンパン「ドン・ペリニオン」(同行価格1本75,000円)が上回るというこれまた銀行界初の快挙を達成した。
ブースのソファに座るだけでチャージ料5,000円がかかるなど,従来の銀行サービスの枠組みを怖いまでにはみ出した同行のサービスの何が顧客の心を掴んでいるのか,他行の熱い関心が集まっている。