「新麻布ヒルズ」オープン−思い切った特色で六本木ヒルズに対抗

六本木ヒルズからわずか1kmというロケーションで,東京都および三井住友不動産により建設が進められていた高層ビル「新麻布ヒルズ」が完成,15日に関係者およびテナント企業を集めてオープニングセレモニーが行われた。
このビルは高さ約120mの35階建てと,都内では決して超高層の部類に入らないが,円形のビルの直径は実に150mと,床面積が非常に大きいのが特徴となっている。中に入ると,直径100mという巨大な吹き抜けがロビーから最上階までを貫いており,天井は開閉式ドーム型屋根になっているため,晴天の日にはビル内に太陽光が降り注ぐ仕掛けとなっている。
しかし「新麻布ヒルズ」最大の特徴は,首都圏直下型地震など,災害発生時に発揮される。東京都は,このビルを「巨大災害発生時における首都圏の防災拠点にする」(都庁防災局)としており,そのための機能が満載されている。オフィススペースは緊急時には仮設住宅として使用可能な仕様となっており,移動用にも利用できる自転車(マウンテンバイク)が6,000台格納されており,救急医療設備が充実しているのは当然であるが,最も特徴的なのは災害時における「炊き出し」機能だ。
ボタン一つで,ロビーの床がスライドして地下から,直径100m・高さ115mの巨大な釜が吹き抜けの空間にせり上がり,ビル全体が「巨大炊飯器」に早変わりする。地下に貯蔵されている大量の水が自動的に注入され,全開になった天井から大型ヘリコプターなどで運ばれてきた米が投入されると,ふたたび天井が閉まり,自家発電機(館内滞在者による自転車漕ぎ)がうなりを上げて猛スピードで炊飯を開始する。ビル内に仕込まれたIH加熱装置により,最大で100万トンのご飯(約60億食分に相当)がわずか1時間で炊き上がるという。ビルごと炊飯ジャーになるという大掛かりな仕組みでありながら,ちゃんと「おこげ」も出来ることが確認されているなど,味へのこだわりも忘れない。故障等に備えてビルのテナントにはタイガー印などのIH家電メーカーが続々と入居を決めている。
この日のセレモニーのメインイベントは,その「炊飯機能」実演。石原都知事の「炊き出し,はじめ!」の掛け声とともにロビーの床が徐々にスライドし,漆黒の巨大釜がゆっくりと姿を見せ始めると,6,000名の招待客から大きなどよめきが起きた。10分後にセッティングが完了すると,天井がゆっくりと開き,この日のために用意された10万トンの米(国内収穫量の約1%に相当)が自衛隊の大型ヘリ150機のピストン輸送で次々と釜の中に投入された。約1時間後に投入が完了すると,再び石原都知事の「スイッチオン!」の掛け声とともに天井が閉まり,全35フロアに配置された6,000台の自転車に招待客がそれぞれまたがり,ペダルを猛スピードで漕いで発電を始めると,うなりを上げてIH炊飯機能が全開となった。15分後には天井の排気口から猛烈な勢いで水蒸気が噴出し,噴出口の先にある六本木ヒルズの外壁を直撃。はからずもIT企業の総本山を「IH陣営の総本山」が挑発する形となった。
水の分量を間違ったため,1時間後に完成したのは約100万トンの「おかゆ」というハプニングはあったものの,自転車漕ぎで汗だくになり,腹を減らした招待客ひとりひとりに嫌というほどのおかゆが出された。「意外といける」というのが招待客の感想であったが,さすがに6,000名で100万トンは食べきれず,残った90万トンのおかゆは再び自衛隊の大型ヘリにより巨大釜ごと吊り上げられ,災害時の非常食としてパック詰めするため茨城県自衛隊百里基地に向かった。
途中,ヘリと釜を結ぶワイヤーのうち5本が切れて釜が傾き,約20万トンの熱々のおかゆ赤坂見附から永田町近辺に降り注ぐというほほえましいハプニングはあったが,2時間後に無事到着。百里基地で丁寧に洗浄された釜は1週間後を目途に再び「新麻布ヒルズ」に移送される予定だ。
IH炊飯機能の稼動中,強烈な電磁波が発生してビル周辺の電波受信が不可能になるなど,今後対応すべき課題はあるものの,セレモニー終了後,石原都知事は記者団に「おいしかったでしょ。来年の秋はマツタケの炊き込みご飯でもやってみるか」と上機嫌で語りかけた。しかし記者のひとりが「首都圏の災害時とはいえ,100万トンものご飯は必要なのか。もっと小さくてもよかったのでは」と質問すると,「食べても食べても尽きないくらいのご飯がある,という事実が被災者にどれだけの安心をもたらすか,考えてみろ!」と一喝。一方で,東京都は外国人の居住者も多いことから,「ご飯だけだと外国人には辛いだろう。六本木ヒルズを使って巨大パンを焼けるようにしてみたらどうだ」と提案,同ビル入居企業を困惑させている。
従来のビルの概念を超えた新麻布ヒルズの今後に注目が集まる。