排出権ビジネス本格化へ−人材派遣会社も参入

CO2等温暖化効果ガスの排出権取引が次第に活発化しつつあり,企業による環境問題への取組みは本格的なステージに移ってきた。既に半導体メーカーがオーストラリアで大規模な植林事業に乗り出す方針を表明する等,排出権の確保・転売を巡るビジネスは今後本格化が予想されている。そのような中,人材派遣業にも排出権取引を意識した動きが出てきており,今後の景気への影響が注目される。
今回,排出権取引関連ビジネスに参入したのは人材派遣業の大日本キャリアサービス(株)。同社では同業他社との戦略的差別化について検討を重ねてきたが,最近の環境問題を巡る動きを差別化の絶好の機会と捉えたもの。
同社の具体的な戦略は,炭酸ガス排出量ゼロの無呼吸派遣社員の養成および派遣。従業員の呼吸により発生する炭酸ガスを大幅に削減することにより,派遣先企業は排出権の確保が可能となるため,大規模メーカー中心に相当な引き合いが来ている模様。大日本製鉄ではまだ検討中であるとしながらも「今後2万人規模で派遣社員を受入れることもあり得る」としている。
問題は炭酸ガス排出量ゼロの人材の育成。酸素を吸って炭酸ガスを排出する通常の社員を,訓練により24時間無呼吸勤務が可能な状態に仕上げるまで約3ヵ月を要するため,常に人材不足の状態にあり,現在派遣されている無呼吸社員の時給は15,000円にまで高騰している。通常の時給に比べて約10倍という高水準に,無呼吸派遣を希望する新規登録者が毎日500人のペースで押し寄せているという。
同社では無呼吸社員の育成法については「最高の企業機密」であるとして一切説明していないが,訓練途中で退社した元社員は,「詳しくは言えないが,以前ヒットした,排気の出ない掃除機の原理を応用して,無呼吸でも大丈夫な体質に変えていくもの」と語っており,「まさに生きるか死ぬかの苦しい訓練だった」としている。東京大学理学部の進藤太教授はこのコメントについて,「人間の体質を掃除機の原理を応用して変えることが出来るというのは想像できない。もし本当ならばノーベル賞ものだ」と懐疑的だ。
同社の派遣登録社員数は今年度末には130,000名に達する勢いであり,経常利益は750億円を見込む等,一気に人材派遣業界トップに躍り出るのは確実。アイデアと技術次第で企業の序列が大きく変わる時代の象徴的な出来事といえよう。