年末「おせち料理」商戦に異状あり

年末にかけて個人消費の回復ぶりが顕著になりつつある。液晶テレビなど高額商品の売れ行きも絶好調だが,ここ数年,12月の百貨店売り上げに占める「おせち料理」の比率も急上昇している。かつては各家庭で作るのが当たり前だったおせち料理も,近年は有名料亭・ホテルなどのものを数万円出して買う,というのが珍しくなくなってきた。1,000億円市場とも言われる年末「おせち料理」市場で,今年話題を呼んでいる商品を紹介する。

遺伝子組換え食品,アレルギー問題,BSE問題等から急速に関心の高まってきている食の安全性に着目したのが「トレーサビリティおせち」。おせち料理で使用した食材の生産・加工・流通履歴を完璧にフォローし,これをおせち料理に添付した異色の商品だ。縦横各25cmの三段重になっているが,料理は一段目のみで,あとの二段は資料がギッシリ詰まっている。二段目に入っているのは各食材の生産者の情報。生産者の顔写真,生年月日,身長・体重・スリーサイズ,学歴・職歴,家族構成,食べ物の好き嫌い,趣味特技,行きつけの店,直近の健康診断結果,家計簿のコピー,友人知人による人物評価まで,過剰なまでの個人情報が満載されており,「生産者として信頼に足る人かどうか」を把握することができるというのが売りだ。また三段目には各食材の詳細な分析結果,および調理加工に関するレシピ等がこれまたギッシリ詰まっている。価格は45,000円と,可食部分が少ない割には高めだが,安心を求める人には人気で,既に限定1,000セットが予約で完売したという。
また,さらに完璧を求める富裕層のために限定生産されるのが,使用している全ての食材の生産・加工・流通過程をもらさずDVDに収めた「完全版トレーサビリティDVDボックス付きおせち」。こちらは,先ほどの三段重に合計25,000枚のDVDがセットで付いてくる。動植物の生育過程(種から生長,収穫まで),加工過程,流通過程が1秒たりとも欠かない完全な形でDVDに映像として収められており,まさに究極のトレーサビリティと言える商品だ。ただ,DVDが大量であることから価格が1セット800万円とかなり高価であること,DVDを全部見るのに少なくとも20年はかかることなどがネックになったのか,現在のところ8セットのみの販売にとどまっているという。「おせち料理は日保ちがするので,DVDで安全を確認して20年後に召し上がっても大丈夫だと思います」という発売元の説明には今ひとつ説得力が感じられない。

ホーム食品が満を辞しておせち市場に送り出したのが「カレーおせち」。「おせちもいいけどカレーもね」という有名なCMがあるが,このCMについてここ10年ほど,同社内では「いつまでもカレーは『おせちの次』『二番手』という立場に甘んじていていいのか」という激しい議論が戦わされてきたという。そうした議論を経て今年,ついに同社で「おせち下剋上」をキャッチフレーズに,「カレーおせち」の発売に踏み切ったもの。
内容は「家族4人が3が日,他に何も食べなくてよいボリューム」(同社広報部)を想定した,3段重ねの超重量級商品だ。1段目は炊きたての「きらら397」3.6kgにチキンカレー2.4kgがたっぷりと掛けられた「チキンの重」。以下2段目は「シーフードの重」,3段目は「ビーフの重」となっており,容器2kgを含めて20kg,「大人一人で持ち帰るのはちょっと難しい」という迫力になっている。こんなに重量がありながら価格は35,000円と,割安感があることから全国的に人気を博しており,よく考えると「超大盛りのカレーライス3人前」であるにもかかわらず,既に7,000セットが販売済みだ。
「カレーばかりでは飽きるのではないか」という他のおせち業者の見方に対して,同社では「3種類のカレーがあるので,3日間くらいなら耐えられるのではないか。スパイスが効いているので日保ちも問題ない」と話している。

今年1年,世間をいろんな意味で騒がせた株式会社「どこでもドア」がネット通販限定で発売しているのが「どこでもドアおせち」。
「インターネットと放送の融合」を掲げたサクラテレビ買収劇が不調に終わった同社による商品コンセプトはもちろん,「おせちの融合」。有名レストラン・料亭・ホテル等が発売するそれぞれのおせちから料理をピックアップして再構成し,「一つのおせちで有名店の味を比べられる」というのがセールスポイントだ。「味の比較をするためには同じ種類の料理で比べるべき」という理由から,再構成したおせちの種類は「かまぼこおせち」「黒豆おせち」「スモークサーモンおせち」など,各店のおせちから同じ料理だけを集めて作った全35種類。
「かまぼこおせち」は二段重になっており,「なだ万」「分とく山」「青柳」「アピシウス」「シェ・イノ」「四川飯店」など全30店のおせちから取り出したえり抜きのかまぼこ(フレンチおせちのみテリーヌ)がギッシリと詰まっている(価格=39,000円)。「黒豆おせち」も同様で,黒一色,三段重ねのおせちが「お正月らしくてよい」と意外に好評だ(価格=46,000円)。
また,「ひとつのおせち料理の中でも融合を図ってみる」という観点から,市販のおせち料理をミキサーでミックスし,ペースト状にして三段重に詰めた「ミックスおせち」(価格=15,000円)も発売している。「歯の悪いお年寄りや小さなお子さんのいる家庭,海老を誰が何匹食べたかで毎年もめるような家庭にはぴったり」だという。先着100セット限定で発売されており,残りはわずか95セットになっていることから,ご希望の方は早めに注文した方がよさそうだ。
こうした同社の商法について,経済界では「人が汗水たらして作ったものを奪い取って,アレンジして利益をあげるという点で同社らしいやり方だ」と冷ややかに見る向きが大勢だ。

これら,従来のおせちとは一線を画した商品の今後の売れ行きに,気まぐれな個人消費の動向を占う上で注目が集まっている。