外資系高級ホテル進出ラッシュ−独自の提携戦略で個性打出すマンタリン,ヘニンシュラ


2002年のフォーシーズンズ丸の内に始まり,2008年のリッツカールトン東京まで続く外資系高級ホテルの東京進出ラッシュだが,競争の激化が予想される中,それぞれのホテルチェーン独自の哲学をかなぐり捨てた戦略を打出す先が出始めている。
今年12月2日に東京・日本橋に開業する「マンタリンオリエンタル」。当初,独自に進出する予定としていたが,他のチェーンと差別化を図る上で「日本の高級ホテルと提携し,日本独自の営業ノウハウを吸収する」という観点から急遽,本年9月に「ハトヤホテル」(静岡・伊東)と資本・業務提携を決め,ホテル名も「マンタリンハトヤホテル東京」でオープンすることとなった。
この提携は,ハトヤホテル側が仕掛けたものとの見方が専ら。今や伊東温泉の代名詞とも言える存在となった大型ホテルであるハトヤにとって,伊東以外の地区への進出は長年の悲願となっていた。2005年に同ホテルが策定した中期経営計画「伊東から世界へ・はばたけハトヤ!クルックー2005」(注)では,東京を手始めとして5年以内に海外進出を実現させる,とされており,今回の提携はまさにその路線に沿ったもの。マンタリン側は,「日本での集客のためには,マンタリンの流儀に加えて,日本ならではの配慮と工夫が不可欠」と熱心に語るハトヤ側の説得を受け,既に内装もほぼ完成していたホテル本体の一部改修等をハトヤに任せることを決めた。これを受けて急ピッチで「マンタリンのハトヤ化」が進むこととなった。
ハトヤ側が最初にこだわったのが電話番号で,予約受付・レストランなど,全ての電話番号の下4桁を「4126」(ヨイフロ)に統一。最上階の38階でほぼ工事が終了していたプール&スパは,急遽「釣り堀&活魚料理の店 大漁亭」に変更された。客が釣り上げた魚をその場で活け造りにするサービスが売り物だが,たくさん釣れば釣るほど単価が下がる「三段逆スライド方式」も健在だ。活け造りのルームサービスにも応じるなど,本家マンタリンではあり得ないサービスにも取組む。また,「温泉あってのハトヤ」という強い信念から,急遽地下1階のフロア全てを「海底大温泉 ハトヤの海」に改装することも決まった。壁面には鯛やヒラメの舞い踊る姿がこれでもかというほどに描かれており,外国人宿泊客のニーズに合うかどうかは別として,ハトヤ色が一段と色濃くなったのは間違いないところ。ビル1階には「ハトヤ消防隊」が常駐し,宿泊客の安全に24時間体制で目を光らせるほか,31階のバンケットホールはディナーショー会場に変更され,宿泊客は飲食料金のみで有名歌手の歌謡ショーを楽しむことができる。12月は兄弟デュエット「狩人」がホテルのオープニングを祝って美声を響かせる予定だという。最上階の外壁には「MANTARIN」のロゴよりもはるかに巨大なハトのイラストが掛けられ,12月2日のオープンを待つだけになっている。これら一連の改修プロジェクトの詳細についてはまだマンタリン側に知らされていないが,ハトヤ側は「きっと『ビフォーアフター』の依頼主のように涙を流して感動してくれるに違いない」と自信満々だ。常識的に考えると,予定通りに開業されるかどうかに不安が残るところだ。

2007年開業予定のヘニンシュラは22日,アパートマンション賃貸仲介大手の「アパマンショップ」と業務提携を行うことを発表した。日本に滞在する外国人が日々の生活で何を必要とするかを徹底的に把握するためには,外国人向け高級アパートメントの賃貸仲介を行っている業者と提携するのが一番と考えたヘニンシュラは,提携先を模索。しかし,日本進出のアドバイザーを務めたコンサルティング会社の誤った情報を信じてしまい,学生・独身者アパートマンション仲介最大手の「アパマンショップ」と提携することとなったもの。
世界でも屈指の超高級ブランドホテルと提携したアパマンショップは,その効果を営業面で発揮させるため,「提携もしているし,たぶん問題ないだろう」という楽観的見通しのもと,仲介しているアパートの名称変更などを手がけ始めた。第1号となったのは,北区赤羽にある築25年の木造2階建てアパート「第3あけぼの荘」。家賃1万9千円という安さで,東京外大の学生などで満室のアパートだが,アパマンショップでは大家の了解を取ってこれを「ザ・ヘニンシュラ赤羽」と改名させた。
ヘニンシュラブランドとしては世界初の「風呂無し・トイレ共同」という形態となったため,ヘニンシュラからの抗議が心配されるところだが,「まだ気付かれていないようなので大丈夫」(アパマンショップ赤羽駅前店)とあくまで強気の姿勢を崩さない。

これらの戦略が吉と出るか凶と出るか,結果は見えているような気もするものの,一応注目されるところだ。