「偽装」問題,忘年会にも波及

耐震偽装設計マンション問題を契機として,社会でこれまで「当然」とされてきた物事に疑いの目が向けられているが,今まさに最盛期の忘年会についても「偽装が存在するのではないか」という追及が始まっている。
追及の先頭に立つNPO「偽装忘年会粉砕ネットワーク」(通称粉砕N)代表のA氏(53)は語る。「12月に入り連日,夫が『今日も忘年会だから』と言って午前様を続けていたんですが,いくら何でも多すぎる,と思い,5日ほど尾行してみたんです。すると,忘年会に行くと言っていながら向かった先は雀荘。5日のうち,3日は同じメンバーで通っていたので,帰宅したところを問い詰めると,『いや,あれは忘年麻雀大会で・・・』『同じメンバーだったのは忘年会の前編・中編・後編だったので・・・』などと苦しい言い訳をするんです。このように,忘年会を口実にして単なる飲み会や遊びに出ている会社員が多いのではないかと思い,家庭を代表して追及すべきと考えました」
粉砕Nは現在180名の職員(臨時雇を含む)を抱え,家庭の主婦を中心とする依頼者の要請に応じて忘年会が真正なものかどうかをチェックする業務を中心に活動している。具体的には,粉砕Nが定めた「真正忘年会チェックリスト」で1項目でも該当しないと,「偽装忘年会」と認定されてただちに依頼者に通報されるとともに,粉砕Nの名にふさわしくその場に酒癖の悪い職員を乱入させて,会を潰してしまうという実力行使も行う。
ちなみに,問題の「チェックリスト」の内容は,「広辞苑」第7版に記載されている「忘年会」の定義を参考に,①少なくとも前日までに開催が決定され,案内状等が準備されているか ②会場には「忘年会」という名目で予約が入っており,飲食を中心とした内容になっているか ③参加者間の会話で,その年に起こった出来事や話題に少なくとも3点以上言及しているか ④忘年会らしい余興が実施されているか ⑤概ね2〜3時間を目途として開催され,一本締め等適切な手段で散会されているか ⑥折詰めの寿司など,家族へのお土産が準備されているか ⑦同じメンバーで複数回開催していないか 等,全部で25項目にも及んでいる。最近の傾向としては,余興が行われていない,あるいは今ひとつの内容ということで「偽装」認定を受けるケースや,家族へのお土産が全く意識されていないために「偽装」認定されて粉砕されるケースが相次いでいるという。
一方で,追及される側も対策を講じようとしている。今月新たに設立されたNPO「真正忘年会認証ネットワーク」(通称認証N)は,会社員が出席する忘年会が本当の忘年会であることを第三者の立場から証明するために設立されたもの。発起人で自らも35回程度の忘年会をこなすという大手商社勤務のB氏(34)は「安心して忘年会に参加するための自衛策として活用してもらいたい」と語る。
認証Nは依頼者の要請を受けて忘年会場に出向き,粉砕Nのチェックリストに準じた確認を実施,忘年会としての適格性が確認された場合には写真入の認定証をその場で発行,忘年会の参加者は認定証を持って胸を張って帰宅できる,という仕組みだ。
しかし,活動開始からわずか3日目の今月16日,認証Nの検証が不十分で実は「偽装忘年会」だった,という事例が発生するなど,認証機関としての信頼性にひびが入り始めている。こうした事態を受け,構造設計問題同様,「そもそも忘年会を35回もやる人間自身が審査を行うのは間違っている」「民ではなく官が担当するべきだ」という議論が急浮上,霞ヶ関では早くも所管省庁を巡って駆け引きが始まっている。
現在有力視されているのは厚生労働省。忘年会の会場となる飲食店を所管しているから,という理由のほかに,労働行政などで立入検査のノウハウにも長けている,という点も支援材料だ。その他農林水産省防衛庁会計検査院なども所管獲得に名乗りをあげており,最終的な決着は予断を許さないが,公務員による「忘年会認証制度」の実現はほぼ間違いない情勢だ。
来年以降は役所の監視下で忘年会を行い,「余興がつまらない」などという指摘を受け,挙句の果て役所から一発芸の行政指導を受ける,という場面も見られるかもしれない。