「パスワード」問題最前線−独自路線で闘う各社の勝算はいかに

この記事は,将来起こるかもしれない事件を妄想を交えて記したもので,少なくとも現時点においては全く事実ではありません。実在の人物・団体・事件等にも一切関係ありませんのでご注意ください。

ネットバンク取引などにおけるセキュリティ強化の観点から,三井住友銀行が60秒ごとに変わるパスワードの導入を発表し,みずほ銀行は最大32桁を可能とするパスワード導入を決めている。これら大々的な取組み以外にも,全国紙では報道されていない様々なパスワード対策が各地で着々と進められている。本日はこうした事例の一部を紹介する。

ATM用としては世界最長の25,000桁パスワードを導入したのは A県に地盤を置く第二地銀のB銀行。同行では「世界最高峰のセキュリティ確保をセールスポイントにする」という戦略から,25,000桁のパスワード登録を全ての顧客に求めている。かつ,この25,000桁の内容については,例えば生年月日や電話番号,氏名などを繰り返す設定では安全性の面で問題があるとして,内容をチェックし,そうした設定を認めないという徹底振りだ。さらには,パスワードを書き記した手帳などが盗難にあい,これを利用して預金引出しをされる可能性を考慮して,顧客には手帳やメモを見ず,パスワードを暗記して入力することを求めている。同行行員がATMに設置したカメラで顧客のパスワード入力状況を常時監視しており,もし手帳や手元のメモを見ながら入力している現場を発見すると,「疑わしい取引」としてただちに監督官庁に通報するとともに,行員がATMに掛け付け,身柄を確保した上で本人かどうかの厳重な確認をしているという。また,当然ながら,パスワードを途中1箇所でも間違うと,最初からの再入力が必要になる。こうした徹底振りが効を奏したのか,25,000桁パスワードを導入して以来,盗難・偽造カードによる預金引出し被害は1件も出ていない。
しかし一方では弊害も目立つ。25,000桁の入力を終えるためには,ノーミスであっても4〜5時間を要するが,ほとんどの顧客は何度か入力ミスをするため,平均すると預金を引き出すまでに80時間程度を要している。また,ATMでパスワードを変更する場合,現在のパスワードを入力した後,新しいパスワードを入力し,さらに確認のため新しいパスワードを再度入力する必要がある。この場合,ノーミスであっても12時間,平均すると160時間程度を要するという。こうしたことから,ATMの前でまるまる三昼夜立ち尽くしてパスワードを打ち続ける結果,貧血や脱水症状,栄養失調で倒れる顧客が続出するというハプニングが発生した。同行ではこうした事態を受け,抜本的対策としてATMを1台ずつ個室仕様にしたうえで,端末の前に椅子を設置,またドリンク・スナックコーナーやトイレ・シャワールームを個室内に装備するという対策を講じた。こうした対策は顧客に「非常に豪華でいい」「パスワード入力が苦じゃなくなった」と評判だという。
なお同行があるA県では,こうした事情から銀行にお金を引き出しに行くために休暇を取得し,パスワード変更を行うために1週間程度の連続休暇を取得する習慣が定着しつつあるという。この影響か,A県内の経済活動は全国対比で著しく落ち込んでおり,他県からは「どこかでボタンを掛け違っているのではないか」と極めて冷静な声があがっている。

パスワードならぬ「パスピクチャー」を導入したのはC銀行。同行のATMにはタッチパネルの脇に専用ペンが備置されており,画面に「登録済みの絵を描いてください」というメッセージが出た後,予め登録しておいた「自分ならではの絵やマーク」を描きこみ,これで認証を行うもの。絵には人それぞれの癖があり,容易には真似できないことから導入したという。
これは,プリクラでシール印刷を行う際に文字や絵を書き込める機能が付いているが,この技術を利用したもの。昨年後半から始まった第三次プリクラブームにも陰りが見える昨今,プリクラマシンを製造・販売する企業が次の収益源を求めて金融機関にアプローチした結果,今回の成約となったという。同行では「現在設置されているプリクラでも現金引出しを可能にする方向で検討したい」としている。

極めてユニークなパスワードシステムを導入したのはD生命。今や同社の顔とも言えるイベント「リーマン川柳コンテスト」と同社ATMを融合させるという思い切った策を導入した。
同社の場合,ATM上でパスワードの登録・変更が可能となっているが,パスワードとして自作の「リーマン川柳」を登録することが出来るようになっており,登録すると自動的に「リーマン川柳コンテスト」への応募も完了する。また,年間に10作以上の応募(=10回以上のパスワード変更)を行うと,自動的にコンテスト参加賞が送付されるという。このところ応募総数が伸び悩み気味のコンテストの起爆剤とするとともに,頻繁なパスワード変更を促すことでセキュリティ強化も実現させるという,まさに一石二鳥の策だ。

画面上に現れる30問のクイズに全問正解することをもってパスワードとしているのはE銀行。「お客様それぞれに,必ず『非常に詳しい知識を持つジャンル』というものがあるはず」という考え方から,全部で7,500ジャンルもの分野を設定し,この中から顧客が指定したジャンルのクイズがATMやネットバンキングのパスワード入力画面上に表示される。
その問題は非常に難易度が高く,その分野に関心がなければ到底全問正解は不可能。例えば,ジャンル「トンネル」において昨日出題された第17問は,「国道194号線の寒風山トンネル工事の起工時に奉納された日本酒の銘柄名および奉納先を答えよ」というもの。問題は毎日変更されるため,顧客は取引を行うためにはそのジャンルでどんな問題が出されても大丈夫なように,日々自己研鑽を積む必要がある。
同行では7,500ジャンルのクイズを日々更新する必要があるため,問題作成を外部業者に委託することも考えたが,「漏洩などセキュリティ上の問題が残る」として,自前で問題作成を行うこととし,各ジャンルに1名ずつ,総勢7,500名を配置した「クイズ部」を新設した。初代の取締役クイズ部長に就任した田中一也氏(48)は,「総行員の4分の1に上る戦力を率いるのは身に余る光栄。セキュリティ強化のために全力を尽くしたい」と,毎日部下から上げられてくる翌日分のクイズ合計225,000問の一つ一つに目を通している。
なお,現在クイズ部には本人の希望に関係なく配属を行っているため,適性がないと思われる部員から異動希望が相次いでいるという。こうした事態を受けて,同行では来年度以降の人事制度において,クイズ部専門のキャリアルート「キャリアQ」を新設する予定だ。

安全のためにどこまでコストを払えばいいのか,各社の取組みとその成果に注目が集まる。