マンション新世紀−続々登場する個性派たち

注意:この記事は,将来起こるかもしれない事件を妄想を交えて記したもので,少なくとも現時点においては全く事実ではありません。実在の人物・団体・事件等にも一切関係ありませんのでご注意ください。


全体としては引き続き好調を維持しているマンション販売だが,「何でも売れる」という時代は終わり,マンションごとの個性をどう出すかが勝負の分かれ目になりつつある。そんな業界で,即日完売を果たした話題の個性派マンション群を紹介する。


「祭り好きによる,祭り好きのためのマンション」を標榜しているのが 「芝浦エンドレスカーニバルタワー」だ。全国的に有名な祭りは別として,地域社会単位で営まれるような祭りは,減少傾向にある。こうした現状を嘆く,とにかく「三度の飯より祭りが好き」というお祭り好き達のために建てられたマンションだ。入居に特に資格は要らないが,マンション周辺の祭りはもちろん,マンション自治会や住民によって運営される祭りが年間450種類もあるため,祭り嫌いの人には到底住める環境ではない。
マンション全体の本祭は毎週1回の開催にとどまるが,それ以外に各階住民主催の祭り(「27階祭り」「35階祭り」など),血液型祭り,星座祭り,体格のよい住民による「でぶや祭り」,等々ありとあらゆるジャンルの祭りが年中無休で企画,開催されている。また,地方で廃れそうになっている祭りを保存する取組みにも熱心で,秋田市の「へそ祭り」など,既に5件の受託が決まっているという。
このマンションには駐車場は用意されていない。代わりにあるのは,最大500台を保管できる「駐神輿場」だ。ほとんどの住民が「マイ神輿」を保有しているため,これでもスペースが足りず,マンション近くの駐車場を借りて神輿を保管している住民までいるという。
マンション住民の合言葉は「打倒 リオのカーニバル」。そこまで頑張らなくても,と思う人は「入居資格がない」(マンション住民)ということらしく,遠くで眺めているのがよさそうだ。


今やフィギュアスケート選手にとって「聖地」となった名古屋市。全国から将来のオリンピック出場を目指す若き精鋭たちが国内留学でここ名古屋に続々と集まっている。そんな名古屋市千種区に誕生,全45戸が「瞬間蒸発」の売れ行きを示したのがT不動産による「クリスタルフィギュアタワー名古屋」。その名のとおり,フィギュア留学で名古屋に転居する家族をターゲットにした個性派マンションだ。
オートロックの玄関を通過すると,ロビーから先は当然,スケートリンクになっており,普通の靴では進めない。エレベータ内の床も氷になっており,各戸の玄関から中に入ると,室内の床もバスルームを除いて全て氷で統一されている。天井の高さは4mもあり,室内でトリプルアクセルを跳んでも問題ない仕様だ。スケート靴なしには日常生活もおぼつかないが,そうした生活を続けることで「フィギュア界の星になりたい」という選手たちに大好評だという。
マンション全体の耐震性能も抜群で,マグニチュード8クラスの地震に見舞われても,大きくしなって元に戻るという。その揺れ具合をもじって「イナバウアー構造」と名づけられた特質を持つこのマンションだが,先日の暴風の際にも大きく揺れ動き,上層階を中心にけが人が続出。しかし,住民たちは「これくらいのリンクの揺れで演技を失敗しているようではまだまだ」と,あくまで前向きに捉えているという。


「ツトムさん」「アキコさん」「メグミさん」「エイイチさん」など,住民どうしが姓ではなく名前で呼び合っているのは,武蔵小杉に出来た超高層マンション「武蔵小杉タワー・ザ・タナカ」。その名のとおり,「田中」さんしか入居できないという変り種マンションだ。
姓名研究で有名な立教大学の武藤敏行教授によれば,「田中姓の人は,『日本を代表する姓』だというプライドが高く,『他のマイナーな姓の人間と一緒にされたくない』という思いを持っている人も少なくない」という。こうした武藤教授の学説を受入れてS不動産によって実現したのが,「田中さん」以外の購入・入居を認めないこのマンションだ。「田中の総本山」という販売用キャッチコピーが全国の田中さんのプライドをくすぐったのか,680戸が即日完売。入居者は「田中」どうしであるため名前で呼び合う習慣が定着,この時代に例がないくらい,緊密な住民どうしの関係が築かれつつあるという。
こうしたマンションの存在は地域社会にも影響を与えずにはいられない。近くの小中学校では,児童・生徒に占める「田中」姓の比率が5割を超えているほか,文具店で売っている印鑑も「田中」以外は注文生産になってしまった模様だ。田中さん達と地域社会の落ち着きのある調和が今後の課題といえる。


大型マンションでは,様々なルームタイプが提供されるのが通常であり,またそれぞれの価格も高層階かどうか,角部屋かどうかといった要因で相当な差があるのが一般的。その結果,入居した後に高額の部屋に住む住民と一般的な価格帯の部屋に住む住民との間に微妙な距離感が生じることが多い。「こうした気遣いや微妙な距離感を持ったまま生活するのは嫌だ」と,全ての住戸が完全に同一条件であることを望む顧客も近年増加しつつある。こうしたニーズに対応,完全なる平等を実現させたのが新浦安に完成した日本初の観覧車型マンション「新浦安サークルレジデンス」だ。
その名のとおり,直径100mの巨大な観覧車に全50戸がぶら下がっている珍しい構造のマンションだ。通常は15分かけて1回転するため,高層マンションにありがちな階層による価格の差異も存在しないし,全戸が完全に同じ間取り・統一価格で販売され,これも即日完売を記録した。
構造上,エレベータ等の設備は設置されていないが,最大でも15分待てば地上に降りられるし,室内のボタンを押せば急速回転して地上に下りることも可能だ。また,節電のため通常は24時から朝6時までの間,回転を停止するが,その間に帰宅しても,オートロック式エントランスで自室の鍵を差し込むと観覧車が急速回転,自分の部屋が地上にやってくる仕組みを備えている。このシステムは防災面でも効果を発揮,万一火災が発生すると,その住戸が急速回転で地上に降りてきて,消火活動を容易にする仕組みだ。他の住戸への延焼の可能性が高い場合は,最終手段として当該住戸を観覧車から切り離して落下させ,地上でエアバッグで受け止めるという,江戸時代の火消しを髣髴とさせる仕組みまで取り入れている。
完全なる公平が実現されているように思われるこのマンションだが,現在住民の間で問題視されているのが「元旦の初日の出を見ることの出来る時間に差が出る」ことだ。理論上,初日の出の瞬間に最高地点に存在する部屋が最初に初日の出を堪能できるが,「これは不公平で,住民の間にしこりを残す」として,管理組合で協議した結果,初日の出の予想時間の10分前から日の出後10分が経過するまでの間,観覧車を1分当たり180回転させ,可能な限り全ての住戸が初日の出の瞬間を平等に味わえるよう運営することで合意したという。1秒当たり3回転する直径100mの観覧車の中で人間が生存することが可能かどうかは未検証ながら,「命よりも平等が大事」という住民には違和感なく受入れられたようだ。


個性の追求は決して悪いことではないが,いったいどこまで続くのか,引き続き業界の動きを追っていきたい。