盲点を突け!−漫画誌業界の「題材戦争」舞台裏(2004年)

注:このコーナーは,1998〜2004年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報が含まれていますのでお気をつけください。


「一つの賭けに勝った,ということです」
青年漫画雑誌「ビックコミック」編集長の佐伯忠信(44)は安堵の表情を隠さない。当局による為替市場介入をテーマとした「ゴルゴ13」が掲載された同誌3月14日号・28日号の売上がいずれも前年比15%を超える増加を記録したからだ。漫画のテーマとしては異例とも言える相当専門性の高い経済問題を取り上げることについては,編集部内でも賛否両論が出たと言う。しかし結果は杞憂に終わった。売上の増加という結果もさることながら,「今後の人口減少を考えると,従来の漫画雑誌購読層を大幅に広げる以外に生き残りの道はない」という持論を持つ佐伯にとって,アンケートはがき回答者のうち,同誌を初めて購入したという回答が実に全体の25%にも達していたという事実は何よりの朗報だった。
同様の問題意識を抱えているのは他の雑誌編集者も同じ。盲点とも言える題材を取り上げて読者層の新規開拓を目指そうとする業界の奮闘ぶりを取材した。



永らく少年漫画雑誌業界のトップを独走していた「週刊少年ジャンプ」もまた,部数の低迷に苦しんでいた。一見地味な「囲碁」をテーマにした「ヒカルの碁」などのヒット作品も生んだが,少子化の影響は予想以上に大きく,大きく販売部数を回復させるには至らなかった。編集長の西村登(48)は「現在の主な読者層の上限は20代前半。これを何とか40代まで広げたい」と考えた。編集部内では「小学生から40代サラリーマンまでをターゲットにするのは無理がある。新たに『週刊壮年ジャンプ』を創刊しては」という意見もあったが,西村は「少年ジャンプ」のブランドと,少年誌NO1のプライドを重視して自らの意見を押し通した。そうして今年1月から新連載が開始されたのが,「金魚ハンターJUN(ジュン)!」「魁!年金塾」の2本。


「金魚ハンターJUN!」は,金魚すくい業界をテーマにした異色作品。縁日などで金魚すくいを営む松次は,長男で主人公のジュンに幼い頃から金魚すくいの秘技をスパルタで叩き込んでいた。「先細りの業界を盛り上げるにはスターが必要だ」と信じる松次は,ジュンにその夢を託そうとしていたのだ。
父親の思惑に反発しながらも天性の才能で次々と高度なテクニックをマスターしていくジュン。ストーリーの随所では,現在の金魚すくい業界を取り巻く意外な事実が次々と語られる。縁日で掬われる金魚の90%以上がタイ産であること,そのタイとのFTA交渉で交渉難航が予想されている論点のひとつがこの金魚輸入であること,カナダの動物愛護団体から「動物虐待である」として5年以上にわたり執拗な抗議を受けていること,等々,金魚すくいというマイナーな業界を通じて世界が垣間見える点も人気の一因と言われている。
最新号では,日本の金魚すくい界の新星となったジュンに,中国金魚すくい業界から4000年の歴史のプライドをかけた挑戦状が届く。勝負は,中国が2000年の研究を費やして生み出した,体重30kgという巨大金魚「豪金」すくい3本勝負。今後のスケール感あふれるストーリー展開が楽しみだ。



「魁!年金塾」は10年以上前に同誌で連載,人気を博していた「魁!男塾」の続編という位置付け。
富樫,虎丸,Jらかつての「男塾」塾生たちは,塾を旅立った後,それぞれの道を歩んでいたが,50歳を超え,老後の生活設計が気になり始めていた。
そんなある日,「発掘!あるある大辞典」を観ていた富樫は,堺正章の「あなたの年金○×チェック」で,自分が将来年金をもらえないことを知って愕然とする。傭兵8年・服役12年等のキャリアが裏目に出た富樫は,ショックを受け,昔の仲間に連絡をとるが,いずれも年金のことを考えたこともないという。
富樫は,思い切ってかつての恩師・男塾の江田島平八塾長を訪ねる。齢100歳を超えてなお血気盛んな江田島は,富樫の話を聞くと胸を叩いた。「俺の下に帰って来い。年金受給歴50年のワシが年金の全てを教えてやる!」
この一言で,江田島塾長のもと,「魁!年金塾」の設置が決まった。かつての男塾塾生たちが,江田島の激しい授業で日本の年金制度を学び,その理念や限界,矛盾を肌で感じ取っていく。読者は読んでいくうちに難解な年金制度を理解できるという仕組みだ。最新号では,年金がもらえないと言って嘆く老婆役で江角マキコを登場させるなど,随所に時事ネタを盛り込んでいるのも人気の秘訣だ。

ビックコミックスピリッツ」で連載が始まった「陶芸Baby」や,「ヤングサンデー」の「僕と彼女と半導体」などの人気作品もそれぞれ読者層の拡大に貢献していると見られる。低迷気味の漫画業界,ひいては出版業界の救世主となるか,注目が集まっている。