鉄道各社,車内暴力防止に向け対策を実施−オリジナリティ溢れる例も(2001年)


注:このコーナーは,1998〜2005年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報が含まれていますのでお気をつけください。


首都圏のJRおよび私鉄各社は,このところ各地で相次ぐ車内暴力事件の発生を防止すべく,様々な対策を講じ始めた。多くの私鉄では,駅係員の巡回回数の増加や車内放送の実施などの対策にとどまっている模様だが,一部では思い切った対策を講じる例も出ており,今後の効果に注目が集まっている。

京王電鉄は10日から,総勢500名の特設警備隊を設置,全車両で警備隊員による車内巡回を開始した。これは,「放送で,何かあれば近くの係員に申し出てくださいと言っているが,近くに誰もいない」という利用客の苦情が多いことから対応を決めたもの。ただ,500名もの警備隊員を新規採用したためそのコスト負担はかなりのもの。このため,警備隊員は車内巡回で暴力事件に目を光らせながら,収益対策としてワゴンによる車内販売を同時に行うという,2足のわらじを履いた格好になっている。ワゴンには幕の内弁当,ビール,日本酒,さきいかチョコボール安倍川餅,吉備団子などを積んでおり,乗客の求めに応じて販売する他,車内暴力を発見した場合は,ワゴン内に待機しているもう1名の警備隊員とともに迅速に事態の収拾にあたるという。ただ,10日の初巡回では,午前8時の新宿行き急行の超混雑車内でワゴンを押して歩いたため,ぶつかり怪我をする乗客やワゴンに足を踏み潰される乗客が続出,警備隊員と,彼らの非常識な振舞いを非難する乗客の間で乱闘が発生するなど,散々のスタートとなった。同社広報部では,「何事も最初は上手くいかないもの。幸い,当社の警備隊員は全員武道の有段者であり,全員無傷で事務所に帰ってきた。明日からも頑張って巡回と販売の両面で活躍してもらいたい」との談話を発表した。

「一見客お断り」という方針を打出したのは京浜急行。同社の路線を利用するためには,事前に同社オフィスで所定の手続を行った者のみに発行される「乗車許可証」の携帯を必要とすることとした。この許可証は,縦20cm横30cmというかなりの大きさのもので,発行のためには同社の主要駅に設けられた窓口に,パスポートや運転免許のような公的身分証明書を持参のうえ出頭し,同社の質問に答えることが必要。許可証は原則として,乗車の際に他の乗客に見えるように首からぶら下げなければならない。許可証には写真のほか,住所・氏名・年齢・職業・座右の銘・趣味・特技・嫌いなことなどがずらりと記載されている。同社では,「車内暴力の発生には,乗客同士が他人であるという匿名性が大きく影響している。乗客それそれのプロフィールを公開させることで,一定の歯止めになることが期待される。また,『嫌いなこと』を明記することで,暴力の原因となるささいなトラブル抑止効果も期待できる」と説明している。ただ,乗客からは「何で電車に乗るのに座右の銘や趣味まで知らせる必要があるのか」という声が多く,同社では「これらの情報が車内で見知らぬ乗客同士のコミュニケーションのきっかけとなればとの願いである」と説明。この説明に対して「電車は出会い系サイトではない」と厳しい批判も相次いでおり,早くも許可証の記載項目見直しが必至の情勢だ。

各車両に防犯カメラを設置したのはJR東日本。まずは9日から京葉線の全車両に導入した。この防犯カメラは,各車両に8台ずつ設置され,車内全ての暴力行為・痴漢行為をモニターできるという高レベルなもの。またカメラは,車内暴力の自動感知装置を兼ねており,カメラに映った人影が一定速度以上で不規則な動きをすると,これを車内暴力として感知する。感知すると,カメラ脇に設置された噴霧口から強力な催眠ガスが放出され,当該車両の乗客全員が30秒以内に意識を失うという。同社では,「暴力で怪我人が出るよりは,全員に寝込んでもらった方がいい。催眠ガスの効果は1時間で切れ,副作用は一切ないので安全だ」と説明している。ただ,京葉線は沿線に東京ディズニーランドを抱えており,9日の導入初日には,舞浜駅近辺でディズニーランドの姿が見えて大はしゃぎを始めた子供たちに向って催眠ガスが放出され,全員寝込んでしまうというアクシデントが発生,舞浜駅で下車するはずの子供たちが千葉まで運ばれてしまうなど,早くも今後の運用のあり方が不安視されている。

このほか,西武鉄道では「車内を和やかなムードにすること」を狙って,今話題の「塩爺ラクゼーションビデオ」(ポニーキャニオン)を全車両で放映し始めた。乗客からは概ね好評を博しているが,この「塩爺」こと塩川正十郎財務相は,かつては「瞬間湯沸かし器」と評されたほど,感情の起伏の激しい人として知られており,「どちらかというと車内暴力を起こしがちなタイプの人」(自民党幹部)という声もあり,人選が適切であったかどうかは評価が分かれている。
いずれにしても,こうした対策で車内暴力が無くなる日がくることを期待したい。