広がる成果主義の波−魚類社会にまで波及,どうするブリ(2005年)


注:このコーナーは,1998〜2005年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報が含まれていますのでお気をつけください。


人間社会では既に一般化した感のある,人事における「成果主義」の導入の波が広がりを見せている。
本年12月からの成果主義導入を決めたのは,卓抜したアイデアで一気に有名になった北海道の「旭山動物園」。それぞれの動物の行動特性を考慮した「行動展示」の考え方は,他の動物園にも影響を与え,全国的に低迷を続けてきた動物園の入場者数を反転上昇させるきっかけとなった。今回,成果主義を導入するのは同園の職員全員と飼育動物全頭。「動物園の収入増につながる成果を挙げたかどうか」という視点で彼らを横一線で評価し,評価上位50人(頭)を職員,それ以下は被飼育対象動物という地位に位置づけるというもの。行動展示に関するアイデアを出さない職員は,来園客に積極的にアピールしてリピーターを増加させたペンギンよりも評価が低くなる,という仕組み。
昨年まで別々だった職員の採用と動物の購入を一本化し,「来園客の増加に貢献できそうか」という視点で決める入園テスト一本で採用を決めるという。高齢の職員の間では「ペンギンに飼育される立場になるくらいならいっそ退職したい」という機運もあるが,「むしろ動物の方が待遇がよさそう」として,あえて成果をあげない職員も出始めるなど,この制度が安定運営に至るまでには課題が少なくないようだ。


一方,日本魚類学会が15日に開催された総会で提唱したのが,いわゆる「出世魚」の判別における成果主義的考え方の導入。
ハマチ(イナダ)→ワラサ→ブリに代表される出世魚は,一般的にはその体長で区分されることが多いが,魚類学会員の間で「単に体長で判別すると言うのは,人間で言えば年功序列で,現代社会にふさわしくない」「ブリにふさわしい成果や実績を挙げたものをブリとして認定すべきだ」という議論が沸騰。
熱心な議論の結果,まずブリの判別基準として,体長ではなく「ブリとしてふさわしい実績を備えているかどうか」をメルクマールとすることを提唱したもの。同学会ではその具体的メルクマールとして,①ブリとしての餌捕獲能力 ②ブリにふさわしい回遊能力 ③ブリにふさわしい脂ののり方 などを挙げている。ただ,もともと成果主義は実績を挙げることに対するインセンティブという意味合いが強く,当のブリにしてみれば,「ブリ」と評価されたところで自身にとってのメリットはなく,むしろ人間に早く食べられてしまうリスクが高まるだけという見方も出来る。また,評価の具体的方法も極めて難しい。このため,同学会では,蓄養マグロ研究等で有名な近畿大学水産研究所に,①ブリの実績・成果測定の方法②ハマチ,ワラサに対して「ブリになりたい」というインセンティブを付与する具体的スキーム の2点の研究委託を行う予定だ。
近畿大学では「このような画期的な研究を受託することになり光栄だ」とコメントしている。そもそもなぜ成果主義出世魚に導入する必要があるのか,という議論が置き去りにされたまま,近畿大学の新たな挑戦が始まる。