大ヒット映画「A.I.」に便乗した映画の公開相次ぐ−興行面での成果は疑問(2001年)


注:このコーナーは,1998〜2005年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報が含まれていますのでお気をつけください。また,登場する企業名は実在のものとは関係なく,かつ時代の変遷と共に現存していないケースもありますのでお気をつけください。


S・スピルバーグ監督の集大成とも言われ,ハーレイ・ジョエル・オスメントくんの「僕を本物の子供にして」という台詞が涙を誘い大ヒットを記録中の「A.I.」(Artificial Intelligence)。早くもその人気に便乗した映画が各地で製作され,今秋以降順次公開されていくことが28日明らかになった。いずれもアルファベット2文字のタイトルとしているのが便乗作品の悲しさといえるところだが,興行的にはいずれも苦戦が予想されている。

東京証券取引所日本証券業協会個人投資家への啓蒙活動用に製作したのが「C.B.(転換社債)」。
主人公は,1989年のバブルの絶頂期に発行された某大手証券の転換社債「日興八郎」くん。映画の前半では,八郎くんが自らの値動きの特性や,パリティ・乖離率など投資判断のための参考指標の見方について淡々と語るなど,啓蒙色満点の内容。しかし後半は一転してドラマ仕立てに。このまま株価の低迷が続けば2001年9月には現金で償還されてしまう八郎くんは,株式に転換されて永遠の命を手に入れるため,風説の流布小泉首相へのPKO(Price Keeping Operation)直訴など,ありとあらゆる手段をとる。
しかしこれらが全て空振りに終わり,結局株価が上がらないまま明日が償還日という夜,寂しそうに「僕を,本当の株式にして・・・」とつぶやきながら去っていく八郎くんの姿は,これもまた見る者の心をそれなりに打つ。なおこの映画は10月下旬から東映Vシネマとしてレンタル・販売される予定だ。

今秋9月に全国東映系250館で公開予定となっているのが,全国農協中央会が総力を挙げて製作した「J.A.」。
土と緑と虫が大好きな少年・大地(だいち)が,もっと農業を知るために地元農協の組合員になろうとするが,農家でもなければ世帯主でもない大地を正組合員として迎えてはくれなかった。大地は,自分を正組合員として受入れてくれる農協を求めて,全国行脚の長い旅を始める。各地の農協の長老から,協同組合運動や正組合員資格,農協法を巡る長い歴史を聞き,自分を正組合員として受入れてくれる可能性がある農協が存在しないことを悟ったが,大地はないに等しい可能性を求めて全国の農協巡りを続ける。
猛暑のなか,農道で倒れ込んだ大地が息も切れ切れに「僕を,本当の組合員にして・・・」とつぶやくラストシーンは見る者の心をそれなりに打つ。

変ったところでは,バーゼル銀行監督委員会が製作した「P.D.」(Probability of Default)。
監督委員会がこの映画製作に熱中したためBIS3次規制の議論が遅れ,規制導入を1年延期することになったといういわくつきの作品だ。
物語は西暦2250年の地球が舞台。リスク管理技術が猛烈な勢いで進化した23世紀の銀行業界は,非常に高度に進化した「BIS48次規制」の支配下で苦しんでいた。自己資本は全然増えない一方で,銀行業務に潜むリスクが次々と発見され,この48次規制からは「役職員の義理の従兄弟が誘拐されるリスク」についての資本準備を求められる等,人類は自己資本不足による滅亡の危機に瀕していた。
フランスのボンジュール銀行で資本対策を担当するピエール(ジャン・レノ)は,この行き過ぎた自己資本規制の原点を求めようとBIS規制の歴史を調べ,その源流が2006年のBIS3次規制から導入されたPD(デフォルト確率)等のパラメータを用いてリスク額を算出する内部格付手法にあることを発見する。ピエールはタイムマシンでBIS3次規制が議論されていた2001年のバーゼル銀行監督委員会に警告書を送付する。「このままでは資本不足で人類が滅亡する」という,未来からの謎のパブリックコメントに混乱し,「やはり導入は延期すべきではないか」という意見が主張される監督委員会。現実と虚構がクロスオーバーするこの映画は大いなる謎を残して終わる。この謎の解明は,来年公開予定の続編映画「O.R.」(Operational Risk)で明かされるという。
この映画は9月頃から全国の銀行の本支店ロビーで上映される。鑑賞料は無料である代わりに,見た者は必ずコメントの提出を求められるので留意した方がいい。

この他,読売新聞社が100周年記念事業として製作した「O.N.」(ラストシーンは王ダイエー監督の「僕を,もう一度巨人軍の監督にして・・・」),横浜中華街経営者協議会が製作した「X.O.」(奇跡の調味料といわれたXO醤を生み出した中華街の「海員閣オーナーシェフ陳隆源さんの半生を描くドラマ),日本交通安全協会が製作した「A.T.」(ラストシーンは,マニュアル車で交通事故を起こした主人公が法廷で涙ながらに「私の免許を,オートマ車限定にして・・・」と訴える)等,続々と便乗作品のラインナップは続いている。この秋,これらの全編制覇を果たしてみるのも一興だろう。