ぶどう農家の逆襲−中高年層1万人の雇用を生み出す奇策に迫る(2004年)


注:このコーナーは,1998〜2005年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報が含まれていますのでお気をつけください。また,登場する企業名・団体名・個人名は実在のものとは関係なく,かつ時代の変遷と共に変化・消滅しているケースもありますのでお気をつけください。


山梨県勝沼町。ワインの産地として知られるこの町はかつて,ぶどう狩りのメッカとしても知られた町だった。「ぶどう狩り」の人気低迷と観光客の減少により活気を失いつつあったこの町は,一人の男の手によって,「オヤジ狩り」のメッカとして息を吹き返してきた。

この町で観光ぶどう園「佐伯果樹園」を経営する佐伯忠信(58)は悩んでいた。毎年8月から10月にかけての入場者収入が彼の年間所得の大半を占めていたが,近年の観光客減少により大幅な収入減に直面していた。
「ぶどう園の入場客を増やすか,オフシーズン対策を考えなければ・・・」
そんな思いで日々を過ごしていた佐伯は,昨年2月に同業者の組合の例会でふと耳にした言葉に釘付けになった。
「都会ではオヤジ狩りがブームになっているらしい」「若者がオヤジ狩りに熱中している」
普段,新聞やテレビをほとんど見ない佐伯にとって,「オヤジ狩り」という言葉は初めて聞くものだったが,「これだ!」とピンと来たと言う。
佐伯が想像した「オヤジ狩り」は,ぶどう狩りと似たようなものだった。「なぜオヤジが人気なんだろう」「どうやって狩るんだろう」「ぶどうはその場で賞味できるが,オヤジはどう賞味するんだろう」・・・
数々の疑問が佐伯の頭の中を駆け巡ったが,「今はとにかくチャレンジしてみる時だ」と決断,大きな勘違いをしたまま,オフシーズンの農園を利用して「オヤジ狩り」の営業をオープンさせることとした。
幸か不幸か,勝沼町でも中高年男性の雇用難は深刻な状況にあり,佐伯の「中高年男性募集」のチラシに,あっという間に上は82歳から下は35歳まで,合計50名を超える応募があった。彼ら「オヤジ」達の意向とアイデアも汲んで,佐伯は「佐伯観光オヤジ狩り農園」(11月〜7月の期間限定営業)の営業を開始した。
一人2,500円の入場料を払った客は,受付で3個のクリームパイを受け取り,農園内に隠れている股引き・腹巻姿のオヤジを見つけてはパイを投げ付けるというのが基本ルール。パイは1個500円で追加できる。また,パイを命中させたオヤジは3名まで無料でお土産として持ち帰ることが出来る(4名以上は追加料金が必要)。営業時間は午前11時から深夜午前1時までと,農園としては異例の長時間営業としたが,これは都会の「オヤジ狩り」が深夜中心に行われているとの情報を得ての判断だった。
当初は一日の入場客数が5名にも満たない状態が続いていたが,この状況を一変させるある出来事が昨年4月に起こった。
きっかけは,日本テレビの報道番組で放映された,「オヤジ狩り」の特集番組。農園に「オヤジ」として勤務している従業員からの情報でこの番組が放映されることを知った佐伯は,めったに見ないテレビの前に座ったが,そこで目の当たりにしたのは,佐伯の想像とは全然違った,凶悪犯罪としてのオヤジ狩りの実情だった。
「オヤジ狩りのイメージが致命的に悪くなってしまう」と,半ばパニックに陥った佐伯は,日本テレビに電話をかけ,報道内容に抗議するとともに,自らが経営するオヤジ狩り農園の健全性を繰り返し訴えた。しかし,そのような農園の存在をそもそも認識していなかった日本テレビにしてみると,この話は,ゴールデンウイークを前にしてちょっと変わった娯楽スポット情報として飛び付きたくなるような情報。早速農園の取材を実施した日本テレビは,4月中旬のバラエティ番組等で「佐伯観光オヤジ狩り農園」を紹介した。
この情報は「合法的にオヤジ狩りが出来る場所」として若者中心に結構な反響を呼び,ゴールデンウイークには1日の入場客数が3,000名を超える日まで出た。土産として持ち帰られるオヤジの補充が間に合わないほどの盛況ぶりに,佐伯も嬉しい悲鳴を上げる状態に。
この様子を見た近隣のぶどう狩り農園が,ぶどうシーズンまでのつなぎとして,次々と同様の「オヤジ狩り農園」を開園,これが相乗効果をもたらし始めた。
夏から秋のぶどう狩りシーズンを終えて,オヤジ狩りシーズン再開となる昨年11月には,勝沼町内のオヤジ狩り農園数は26箇所に達した。また,雇用されている「オヤジ」の総数は1万名近くに達し(2月末現在,勝沼町役場推定),山梨県内の失業率を1.3%も引き下げる効果をもたらしている(山梨中央銀行調べ)。

「持ち帰られたオヤジの人権問題だ」と社民党などはこの「オヤジ狩り農園」を激しく批判しているが,意外にも持ち帰られたオヤジの大部分は「大変幸福だ」という。
渋谷区で同棲中のカップル,塩崎祐一(22)と渡部杏子(20)は昨年5月に佐伯農園を訪問,パイをぶつけたオヤジ1名を「冗談半分」(塩崎)に持ち帰った。持ち帰られた元「オヤジ」の高田剛(52)は,「最初はいじめられるのではないかと不安だったが,若い者との生活は毎日が刺激的だ」と明るい表情で語っている。
一方,塩崎と渡部にしても,「最初は冗談で持ち帰ったんだけど,結構自分の知らない話を知っていて,意外と面白い」。
フリーターとして塩崎が働く原宿のカフェ「太陽とシスコムーン」のチーフを務める神埼哲矢(28)は,「中高年者と暮らしているせいか,塩崎の言葉使いがかなり常識的になっている。正社員として採用できるレベルに近づいている」と,意外な「副産物」があることを示唆する。
青少年心理に詳しい國學院大學文学部教授の桜井富一(49)は,ここ数ヶ月間,いわゆる犯罪としての「オヤジ狩り」が減少気味であることを指摘し,「合法的なストレス発散先が出来たことも原因のひとつではないか」と推測する。
佐伯の大きな勘違いから始まった,山梨発のうねりが今,日本社会全体に確かな変化を生み出そうとしている。(文中敬称略)