特別レポート・「朝宴会」ブームの研究(2001年)


注:このコーナーは,1998〜2004年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報が含まれていますのでお気をつけください。


最近,「BRIO」「男の隠れ家」等の一部雑誌でもとりあげられる機会が多く,ご存知の方も少なくないと思うが,早朝に開く宴会が静かなブームを呼んでいる。今回は,こうした「朝宴会」の実態と,その背景にあるものをレポートしてみた。


東京・神楽坂に店を構える料亭「一條」。現在神楽坂一円の料亭が手がけるようになった早朝宴会の元祖と呼ばれるこの料亭の朝は異様に早い。午前1時にはスタッフが勢揃いし,午前4時30分の開店に向けて準備を進める。
国家公務員が参加する夜の宴会は,国家公務員倫理法の施行以降,例え自己負担であっても倫理監督官の許可が必要な場合もあるため,極端に減少していた。こうした事情を踏まえ,各料亭では顧客にお昼の宴会を勧めていたが,会食時間が通常1時間,長くても1時間半程度しかとれないことから不人気で,一部料亭の経営難も囁かれるほどの事態になっていた。そんななかで「一條」が提案したのが朝宴会。国家公務員も夜間でなければ自腹で気兼ねなく飲食できるとあって,この提案は霞ヶ関中心に大受け。各省庁が「夜間」の定義として「日没から日の出まで」という見解を出したことも人気に拍車をかけた。
また,民間企業でも近年の経費節減・コンプライアンス重視等から夜間の宴会が減少していたが,「朝の陽光の下での宴会ならば後ろめたさがない」「終了時間がはっきり決まっているから想定外の深酒をせずに済む」という理由で朝宴会は大人気になってきた。
筆者が神楽坂を訪れた10月19日の日の出時刻は午前5時50分。午前5時30分を回るころからどこからともなく人が集まり始め,それぞれなじみの店に消えていく。そして太陽の光がわずかに感じられた5時50分,神楽坂全体に日の出を知らせる勇壮な太鼓が打ち鳴らされ,あちらこちらの料亭から「乾杯!」という威勢のいい発声が上がった。
客の中には,早朝の空気を味わうために,座敷ではなく料亭の庭園に緋毛氈(ひもうせん)を敷いて宴を楽しむ者もいるという。ただ,オープンエアでの早朝宴会は気分がいい半面,プライバシーが全く無い点も問題。先月,料亭「わた音」の庭で芸者衆をあげて大騒ぎをしていた某大手企業の宴会現場が写真週刊誌「FRIDAY」に激写され,「午前7時の野球拳」という批判的なタイトルと共に誌面を飾ったのは記憶に新しいところ。こうしたことを気にして,公務員はあくまで座敷での宴会にこだわる傾向が強いという。
午前8時30分頃になると,あちこちで一本締めや三本締めの声が聞こえ,いまや神楽坂名物となった朝宴会も終わりを告げる。9時前には出席者が三々五々職場に向う姿が見られるが,中にはすっかり正体をなくした泥酔者も混じっているのはご愛敬か。
朝宴会は費用も安く,「一日が長く使える」とビジネスマンに大好評のため,大手居酒屋チェーンなども追随する動きを見せている他,焼肉チェーン店「牛角」も「早朝焼肉宴会パック」(午前6時から8時までの2時間限定;10名以上のグループで飲み放題食べ放題1人980円)を企画している。低迷する個人消費の火付け役となれるかどうか,注目されるところだ。


東京・元赤坂の「明治記念館」。この有名結婚式場が手がけている「早朝ウエディング」が,結婚を控えた男女の間で大変な人気を集めている。
既に来年12月まで予約で埋まっているというこの「早朝ウエディング」プランは,同社宴会企画課の若手社員の発案によるもの。コストを大幅に下げるために,これまで全く使用していなかった時間帯を使い,料理も「豪華な朝食」をコンセプトにしたリーズナブルな価格設定に抑えるといった工夫がされている。さらに重要なポイントが,「披露宴が終わった後そのまま通勤・通学が可能」という点だ。従来の披露宴は休日に行われることが多かったが,この早朝披露宴は出席者の休日の都合を気にすることなく招待できるというメリットがある。早朝ウエディングプランのスケジュールは次のようになっている。
<午前1時> 新婦式場入り
準備に時間のかかる花嫁さんは一足先に式場入り。なお,都営地下鉄大江戸線(最寄り駅は国立競技場前駅)の終電を使えばちょうど午前1時に式場入りが可能だ。
<午前2時> 新郎式場入り
準備に時間のかからない花婿さんは一足遅く式場入り。中には深夜残業をこなして,その足でタクシーを飛ばして式場入りする仕事熱心な新郎さんも。
<午前4時> 挙式
この「早朝ウエディング」プランの広告のキャッチコピー「午前4時の花嫁」の由来となっている時刻設定。ちなみに式にも出席する親族・友人等は午前3時30分が集合時刻となっている。大安吉日およびその前日は都営地下鉄大江戸線終夜運転しているのでこれを利用すると便利だ。
<午前5時> 披露宴
ようやく空が白み始めた午前5時に披露宴が始まる。午前5時15分頃に乾杯,午前5時30分頃にお色直し,午前6時頃にキャンドルサービス,午前6時30分頃に祝電披露と余興の隠し芸,午前7時15分頃に両親への花束贈呈という時間設定は,世間から見ると「朝っぱらから何やってんだ」という感じだが,会場内にいるとそれほど気にならない。
<午前7時30分> 披露宴お開き
出席者の通勤・通学時間を考慮し,午前7時30分に全員でラジオ体操をして披露宴はお開きとなる。引出物には,式場のサービスとしてもれなく当日の朝刊が入っているなど,早朝ウエディングならではの気遣いも感じられる。披露宴を終えた新郎新婦も必要であればその足で出勤できるところがこのプランの凄いところだ。


政治家の資金集めのパーティも,少しでもイメージを良くしようと早朝開催されるケースが増えてきた。
早朝政治家パーティの元祖は何と言っても森田健作議員の「青春パーティ・俺は議員だ!」(原則として毎週月・水・金の午前5時に開催)。
「青春政治家」として知られる森田氏にとっても,政治活動資金不足は悩みの種。議員仲間に相談したところ,「パーティの開催が一番いい」と勧められたことをきっかけとして,既に開催回数は300回を超えるまでになった。
ただ,知り合いの披露宴に祝儀として千円の図書カードを堂々と差し出すなど,森田氏のある意味浮世離れした金銭感覚は永田町でも有名なところ。その森田氏が設定したパーティの会費は「たくさんの人が来るように」という趣旨もあり,一人あたりわずか100円。しかも「人間,朝飯が基本だ」というポリシーを実践すべく,ボリューム満点のおにぎり・味噌汁・御新香が食べ放題という。
もはやその開催目的を見失っているとしか言いようがないこのパーティは,「割安な朝食を食べられる場所」として一般市民に大人気で,会場である神奈川県川崎市多摩川の土手には毎回2,000人を超える出席者が集まるという。
当然のごとくこのパーティは毎回赤字で,森田氏の負債は増えるばかり。「やはり1万人くらい集めないと儲からないのか」と森田議員は悩むが,一旦始めた企画を中止するわけにも行かず,今日も多摩川の土手で熱い青春放談を繰り広げている。


早朝パーティで政界復帰を狙っているのが,現在夫婦で選挙浪人中(筆者注:当時)の船田元・畑恵夫妻。筆者は大枚2万円をはたいて,10月17日に栃木県の宇都宮東武ホテルで開催されたパーティに出席してみた。
まだ周囲がほの暗い午前6時。東武ホテルに到着した筆者を迎えたのは,ホテル壁面に大きく掲げられた「元&恵LOVE・ザ・パーティ−世界は二人のために,二人は有権者のために」という巨大垂れ幕。「なぜこんなパーティに来てしまったんだろう」と激しい後悔を覚えつつパーティ会場に入った。
こちらのパーティは政治家のパーティの本道を行くもので,わずかな飲み物とわずかな食べ物が数箇所に置かれているだけ。パーティ会場は1,000人を収容できる大きなものだが,出席者はみたところ40人程度と,やや寂しい感は否めない。
午前6時30分に主役の二人が姿を見せ,パーティは始まった。しかし,パーティには今の二人が置かれた状況を反映してか来賓が一人もおらず,元・恵の二人がカラオケデュエットとMCを繰り返すだけ。開始10分後には,船田氏が汗をかきながら「昨夜,徹夜で考えました」という一発芸「田中角栄」を披露したが,あまりのつまらなさにただでさえ静かな会場は必要以上に静まり返り,耐えられなくなった30名が会場を後にし,広い会場に残されたのは筆者を含め約10名となった。
この人数で,涙を流して見つめ合いながら熱唱する二人の姿と対峙するのは想像を絶する辛さで,筆者も午前7時頃,5曲目の「愛の賛歌」が佳境に入ったあたりで限界に達し,二人の早い政界復帰を祈念しつつやむを得ず会場を後にした。


朝という時間帯の汚れのないイメージ,そして「朝から一仕事した」という充実感に支えられたこの朝宴会ブームは,当分続きそうだ。