ルポ・「サラリーマンボクシング」ブームの現状

注意:本記事は,現時点において事実ではない情報を大量に含んでおります。その点をご理解のうえお読みいただきますようお願いします。

かつては極めてマイナーなスポーツだった「サラリーマンボクシング」が,各企業および来年以降就職を控える大学生等の間で人気を博している。今日はこの「サラリーマンボクシング」ブームを追ってみた。
1月20日の朝7時。早朝の後楽園ホールで今年最初の「サラリーマンボクシング」全12試合が始まった。観客はこの時間にしては異例ともいえる550名。150名程度は選手の同僚による応援だが,それ以外は全て就職を控えた学生で占められている。
「サラリーマンボクシング」がスタートしたのは今から5年前。東京六大学のボクシング部OBによる親睦団体「ドランカーズクラブ」による提唱がきっかけとなった。テニス,ゴルフなどのスポーツと異なり,ボクシングは社会人になった後も続けていくのは相当困難な競技。ボクシング部OB達も社会人になるとほぼ全員がボクシングから卒業しているが,何年か経つと熱い「ボクシング魂」がよみがえるのか,定期的に集まりボクシングについて語り合いたい,というニーズが強く,そうしたことから8年前に「ドランカーズクラブ」が設立された。当初は昔の試合等について語り合うだけだったのが,次第に身体も動かしながらの議論に発展していき,「実際に試合をしよう」という機運が盛り上がるまでにさほどの時間は要しなかった。
サラリーマンらしいボクシングにしようと,各チーム3名が同時にリングに上がって試合を行う団体競技方式を採用したところ,「組織的に動くことが染み付いたサラリーマンには非常にフィットしている」「時々休めるのでそれほどきつくない」と好評を博した。こうした中で,企業内のボクシング経験者を中心にチームが徐々に結成され始め,定期的なリーグ戦を実施する本格的な「サラリーマンボクシング」が成立するに至ったもの。
従業員数1,000名超の企業に所属するチームは「闘将1部」,1,000名未満の企業に所属するチームは「闘将2部」に分類される。闘将1部は,1チーム5名となっており,例えば部長−副部長−課長−課長代理−担当などでチームを構成する。闘将2部は企業規模に合わせて社長−部長−担当などの3名1チームとなっている。1部も2部も,リングは通常のボクシングと同じサイズであり,このリングに全員が入って一斉に試合が始まる。試合は部下の働きには関係なく,あくまでどちらかの大将がKOされることで勝敗が決まる(判定の場合は大将の受けたダメージで評価)のもサラリーマン社会ならではのルールだ。そのため各チームの戦法は,それぞれの社風・選手の個性・チームワークを反映して相当ユニークなものになっており,それが「企業の実態がよく見える」ということで就職を控えた学生の注目を集める要因になっている。
一般的な戦法は,部下が敵方の部下をマンツーマンディフェンスで押さえ込んで大将同士が一騎打ちを行うというパターン。しかし,なかには部下が撃沈覚悟で敵方大将に一斉突撃してダメージを与え,上司はその間悠々としているケースや,逆に部下が早々に試合放棄してしまい,大将一人が敵全員にボコボコにされるケースなども見られる。また,ポイントを稼ぐために細かいジャブを繰り出すチームもあれば,クリンチ大好きなチーム,カウンターによる一発KO狙いのチームもある。さらには,試合中にもかかわらずチーム内で内輪もめが始まり大将が自らの部下のパンチでKOされるケースや,合併直後の企業チームで,敵チームへの攻撃の順番も「たすき掛け」を守っているケースまであるなど,まさに現代サラリーマン社会の縮図がリング上で展開されている。
こうしたサラリーマンボクシングは,経営者の立場からすれば,チームの一体感の醸成を通じて日常の業務運営を円滑にするほか,顔中あざだらけでの営業活動が「取引先に無言のプレッシャーを与えるのか,好条件での取引成約に至る場合が多くなった」(経験者)など,好ましい効果をもたらすことが多いことから,経営としてチーム結成を後押しする動きも多くなりつつある。
文具・オフィス用品最大手メーカーのK社は,社長が大のボクシング好きということもあり全社員の6割が選手になっているという,サラリーマンボクシング界の最先端企業だ。オフィス用品を本業とする同社のオフィスは,最新型のデスクなど働きやすさに配慮した機能的なものであるが,同時に目立つのが,至るところにぶら下がるサンドバッグの多さ。「社員3人につき1本」(同社管財部)という割合で吊るされたサンドバッグの周りには,休み時間になると社員が群がって次々とパンチを繰り出している。
また,同社の会議はボクシングにならって3分単位。提案部(者)が3分間で説明を行い,1分間の検討時間ののち,次の3分間で質疑応答を行った後,上席者の判定により結論が下されるという仕組みで,会議時間が社全体で90%以上削減されたという。また,CSRの一環として,新橋駅前に特設リングを無償で提供しており,夜9時を過ぎると,千鳥足で闘う泥酔したサラリーマンで一杯になるなど人気を博している。現在では同社の人事評定項目には「握力」「体脂肪率」「リーチ」「KO率」などが加えられているなど,名実ともに「闘う企業」としての地位を確立しており,他社の追随を許さない独走態勢を固めつつある。
こうしたサラリーマンボクシングの隆盛を受けて,「サラリーマン相撲」「サラリーマンハンマー投げ」など,他の競技でも同様の試みが始まっているが,ボクシング人気の影に隠れてしまっており,定着の道は険しそうだ。
なお,サラリーマンボクシングがオリンピック種目となる見通しは現在のところゼロとされており,「今後の長期的課題」(ドランカーズクラブ幹部)としての取組みが期待される。