地獄の訓練が再びブームに−企業買収等の影響で

注意:この記事には,現時点において事実ではない情報が大量に含まれています。記事中に登場する法人名・個人名等は実在のものとは一切関係がありません。その点をご理解のうえお読みくださるようお願いいたします。


かつて一世を風靡した「地獄の訓練」が今,再び脚光を浴びている。
地獄の訓練」とは,強力な管理職や営業マンを短期間で養成することを目的とした,合宿形式による研修プログラムのこと。
「夜間40km行軍訓練」や「駅頭歌唱訓練」など,通常の企業内研修ではみられないハードなプログラムが満載されていることで有名になり,バブル期に多くの企業が社員を送り込んだ。
「やる気の無い社員が見違えるようになって帰ってきた」と評価する声も少なくなかったが,一方であまりに厳しいプログラムで脱落者が続出,「人権問題だ」と批判する向きもあり,バブル崩壊と相前後して徐々に利用者は減少に向かっていった。



そんな「地獄の訓練」が再び注目を集めるようになったのは,「企業経営者の意識変化が大きく影響している」と語るのは,信州大学の松本均教授(人間行動科学論)。
今後継続的に人口が減少していくことが見込まれるなか,企業が持続的に利益をあげていくためには,社員の生産性を飛躍的に向上させることが不可欠。
しかし,同教授の調査によれば「現代のホワイトカラーは全労働時間のうち78%を『社内調整』に充てている」という。会議等で目標・方針を共有したように思えても,出席者間で微妙な受け取り方の差があるのはよくあること。また,決定された方針が本社から支社,上司から部下に伝えられていく過程で誤解・曲解が生じてしまい,後々トラブルを生んでその事後処理に追われるというのも誰しも経験のあるところだ。
企業が生産性を上げるには,こうしたトラブル処理などの内部調整を少しでも減らし,本来の業務に注力するため,社内における目標・方針等を完璧に理解・共有していくことが求められている。
また,最近のM&Aの隆盛も関係している,と松本教授は指摘する。「時間を買う」ために企業買収が相次いでいるが,あくまで事業内容に着目して決定されるケースが大半であり,企業風土が全く異なる企業同士が経営統合する例も少なくない。こうした企業で統合効果を早期に生み出していくためには,異質な相手を完璧に理解し,目標を共有して行動していくことが不可欠。
ただ,多人数による完璧な目標共有のための効果的な方策はなく,各企業では社内研修等で試行錯誤を繰り返してきた。
そんななか,昨年11月に社員教育研究所が新たに発表した「完全コミュニケーション訓練」が企業の注目を集めるに至ったもの。



この研修は,10日間,富士山ろくの合宿所に泊まり込んで行われる。
初日の夜に行われるのは「伝言ゲーム訓練」。100名1チームとなり,教官が伝えるメッセージを一字一句間違えずに次の研修生に伝言し,100番目の研修生まで完璧に正確なメッセージが伝われば合格,というもの。
しかし,メッセージ内容が3,000字前後とかなり長いこと,外国人を含む人名が20名以上登場すること,全く畑違いの専門用語が50種類以上含まれることから,最初の1名で既に間違うケースすらあるという。合格するまで全員でのやり直しが繰り返され,平均すれば98時間程度でようやく合格に至るという。
この訓練は「全員が完璧に同じことを共有することの難しさを身をもって体験してもらう」ためのものであり,いわば導入部に過ぎない。


その後,100名が完璧に同じ振り付けを覚える「ダンス訓練」,特定の言葉を聞いて全員が同じことを連想できるようになるまで続く「連想ゲーム訓練」などを経て,研修のメインである「異種生命体コミュニケーション訓練」が始まる。
研修生は一人一人,約3畳の個室に入れられ,教官が連れてくる異種生命体との同居を命ぜられる。どのような生物が割り当てられるかは全くの運次第。研修生は5日間のうちにこの異種生命体とコミュニケーションをとり,「納豆を食べさせて美味いと言わせる」というノルマを課される。
昨年12月にこの訓練に参加した住友不動産のAさん(31)の場合,同居を命ぜられたのは「ガラパゴスゾウガメ」。日本語はもちろん,英語やスペイン語も通じず,どうしていいかわからないAさんは苦し紛れに無理矢理納豆をゾウガメの口に押し込もうとしたが,ゾウガメの激しい抵抗に会い,逆に襲いかかられるというアクシデントに見舞われたという。
しかし,反省したAさんは翌日には「納豆が健康にいい」ということを爬虫類にもわかりやすく伝えるべく,身振り手振りでメッセージを伝え始めた。相手の目線に合わせたパフォーマンスが続くうちに,ゾウガメも徐々に落ち着きを取り戻し,4日目にはついに自発的に納豆を口にしたという。
Aさんは最後のハードルである「美味い」という言葉を発させるべく,ゾウガメの目の前で「うまい」という発音の口の動きを繰り返し見せ,最終日には人間らしい発音からはほど遠いものの,ゾウガメ自ら「美味い」と発させることに成功したという。
同時に参加していたAさんの同僚らには「活き帆立貝」「ライオン」「ミズダコ」「エイリアン」など様々な割当がなされていたが,ライオンと同居して姿が見えなくなった1名を除き,全員が課題のクリアに成功したという。訓練を終えた研修生らは「活き帆立貝に納豆を食べさせた我々にとっては,どんな企業と経営統合しても,もはやコミュニケーション上の問題は一切無い」と意気揚々と帰途に着いたという。


既に1,800名もの研修修了者が出ているこの訓練には,不規則発言が目立ち統一感・緊張感に欠けていると批判される安倍内閣の全閣僚が,ゴールデンウイークを利用して参加するという。
今後どのような利用のされ方をし,社会にどのようなインパクトをもたらしていくのか,注目される。