給与水準引上げにあの手この手−人材争奪をめぐる企業の苦闘を追う


注意:この記事には,現時点において事実ではない情報が大量に含まれています。記事中に登場する法人名・個人名等は実在のものとは一切関係がありません。その点をご理解のうえお読みくださるようお願いいたします。


人材獲得競争に打ち勝つべく,初任給を含めて給与水準を引き上げる企業が相次いでいる。しかし,給与引上げのためには財源が必要なのも事実。独自の取組みを進める企業の苦闘を追った。

今年度から給与体系を抜本的に変更したのは(株)アイリスオーヤマ
「基本給+歩合給−個人負担経費」で構成される給与体系に変更され,基本給は新卒初任者で10万円という水準ながら,歩合給は業務ごとに細かく定められた算式で得られた粗利益の30%が支払われるというもの。入社2年目の平均的な社員で「基本給+歩合給」は180万円/月にも達するという。しかし問題は,「個人負担経費」の内容と金額。
今年同社に入社した小笠原龍太さん(23)は,高水準の給与に惹かれて入社を決めた一人。だが,その小笠原さんの4月の給与明細は次のとおりだった。

  • 基本給 10万円
  • 歩合給 93万円
  • 個人負担経費 102万9,991円
  • 差引支給額 9円

チロルチョコ1個すら買えないあまりの貧給ぶりに,眩暈を感じた小笠原さんのもとに管財部から別途送付されてきた「個人負担経費」明細の内容は次のようになっていた。

  • コピー使用料 37万3,960円(@20円×18,698枚)
  • 文具使用料 8,000円
  • デスク使用料 21万円(10,000円/日)
  • PC使用料 18万3,000円(@10円/分×305時間)
  • ビル管理・光熱費 19万1,891円(オフィス滞在時間等によって決定)
  • トイレ使用料 1万2,200円(@200円×61回)
  • 電話代 1万2,000円
  • 喫煙ルーム入室料 1万5,000円(@500円×30回)
  • キャビネ使用料 2万3,940円

同社では,これら事細かに使用した金額を算定するために,全ての機器類使用やオフィス内のエリア入退室時にIDカードを使用させ,これにより料金をカウントしているという。

同社の大山社長によれば,こうした制度を採り入れたのは「表面上の給与を上げるのもさることながら,全社員にコスト感覚をもって仕事をしてもらうには,身銭を切る形をとるのが一番だと判断したから」だという。
例えばコピーでは,「安易な失敗コピーのやり直し,資料ページ数の水脹れ,会議のつど生じる予備の部数の準備等により,同社全体で年間2,000万枚程度の無駄が生じている」と大山社長は指摘する。こうした措置を導入することにより,会議用資料の枚数は大幅に減少し,さらには会議では主催者が出席者に「資料を有料で販売し,コピー代を回収する」という光景も一般化しつつあるという。無駄な資料が多い会議では出席者の大半が資料購入を拒否し,そのまま退室する事態も続出するなど,少々荒療治といった感はあるものの,大山社長の狙いは当たりつつあるようだ。
また,PC使用料を徴収することで,離席時の電源オフや「仕事をしているように見せかける」ためのPC使用が激減,電力使用量も減少傾向にあるという。一方,デスク使用料は,座席の定位置が決まっていないフリーアドレス制オフィスを採用している同社独特のもの。その日の気分にあったデスクで能率的に仕事が出来るよう,役員風の個室もあれば,普通の事務机,ビールケースやみかん箱と座布団,立ち食いそば屋のカウンターのような椅子無しデスクまで,多様なデスクが用意されており,どれを使うかは社員の自由。ただし,高級なデスクほど使用料が高く,先の例の小笠原さんは,うかつにも毎日役員風個室に入って仕事をしたために,10,000円/日という使用料を取られる羽目となったもの。手取り額を増やすために椅子無しデスク(50円/日)で我慢する部長や,競馬で大穴を当てた若手社員が「自分へのご褒美」として個室を利用するケースなど,様々な人間模様が見られる。
ビル管理・光熱費はオフィス滞在時間に応じて決まるが,この仕組みのミソは,定時を過ぎて残業する場合,残業している社員だけでその時間帯のビル管理・光熱費を負担するという点。少人数で遅くまで残業していると,ビル全体の電気代や警備員の人件費まで負担させられてしまう。仮に1人だけで23時過ぎに残業すると,1時間の負担額は実に12万円にも上るという恐ろしい試算もあり,同社における時間外勤務削減の大きな原動力となっている。
コストを払いたくなければ一切仕事しないという手もあるが,基本給である10万円から仕事をしなくても発生するビル管理・光熱費やトイレ使用料,デスク使用料を差し引くと「手取りは3万円程度にしかならない」と言われており,上手い手はなさそうだ。



社内の遊休資産活用で収益を生み出すアプローチを採用したのは日本生命
今年4月から,同社の内勤社員全員に,鼻孔にリング状のピアスを装着するルールが適用されることとなった。このピアスからは白くて細いケーブルがぶら下がっており,その先は各フロアに数箇所設置されたターミナルに接続されている。これは,同社がNECと共同開発した世界初の「大脳グリッドコンピューティング」のための装置だ。
各地に散在するPCなどをネットワークで接続し,あたかも1台のスーパーコンピュータのように高速大量演算をさせる技法を,人間の大脳に応用したものだ。「大脳で使われているのは5%に過ぎず,残り95%は遊んでいる」という学説を受け,「95%の部分を何かに活用できないか」という思い付きからNECとの共同研究がスタートしたのは3年前。その後,鼻孔の特定部位に大脳に直結するポイントがあることを発見,ここにピアスを装着し,ケーブルで接続することで大脳の余力を引き出して活用する仕組みを開発したものだ。
最初の受託業務は昨年,國學院大學の武部教授から依頼を受けた膨大な量の文書解析。238億文字もの対象文書から「等」「など」という文字を抽出するという作業を,同社社員2,500名の大脳を活用して実施。膨大な作業をわずか6分で完了するという驚異的な成果を記録し,受託手数料として8,500万円もの報酬を獲得した。その後,この成果を聞きつけた各方面から依頼が殺到,18年度だけで385件,152億円ものビジネスに急成長した。「社員の大脳を活用する以上,収益も社員に還元するのが筋」として,これが同社における給与水準引上げの原資に当てられている。
大脳を使われた社員らは「特に痛みなどは感じないが,何となく頭の中で知らない人が話しているような感覚が残る」と,何とも微妙な「使われ心地」を語っている。
なお同社では,「せっかくの装置をグリッドコンピューティングにしか使わないのはもったいない」として,このピアス&ケーブルを,社内連絡網としても活用すべく研究を進めているという。
実用化された暁には,社内連絡用に使用されている「Lotus Notes」を廃止し,これまでNotesを介して提供していた社内連絡文書や電子メールを,ケーブルで社員の大脳に直接送り込む予定だという。「メールを読んでいないとは言わせない」「こんな通知が来ていたとは知らなかったとは言わせない」という同社の恐るべき意気込みが感じられる。

会社と社員はどう向き合うべきか,という問題を考えずにはいられない事例だが,今後もこうした取組みはますます増加しそうだ。