BIS,新たな自己資本比率規制案を見直しへ−自己資本の範囲を拡大(2005年)


注:このコーナーは,1998〜2005年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報および今日の状況に合わない情報が含まれていますのでお気をつけください。


銀行に適用される自己資本比率規制を協議・決定するバーゼル銀行監督委員会は25日,「自己資本の範囲に関するバーゼル追加合意」(市中協議案)と題するペーパーを公表,8月末を期限として広く意見を求めたうえで年内に最終確定させることを明らかにした。

既に2006年末以降に適用が開始される新規制が事実上確定している中で,異例の追加合意案が急遽策定された背景にあるのは,邦銀が6月の委員会で発言した「資本金や準備金も重要かもしれないが,経営においては人こそ真の資本なのだ」という意見。
この主張は,実は「プレゼンの締めくくりの言葉として,精神論を述べたに過ぎない」(邦銀大手行幹部)もの。しかし,規制最終案も確定し,安堵感と若干の手持ち無沙汰な空気が漂う委員会では,意外にも「そりゃそうだ」と賛同を示す意見が相次いだ。そして「折角だから今回の最終案に盛り込んでしまえ」という意見が盛り上がり,今回の市中協議案公表につながったもの。
「人こそ資本」という精神論を,新たな自己資本比率規制に盛り込むうえで委員会が最も苦心したのが,「人を資本に換算する要件と基準」。(1)資本は,経営上発生した損失を填補し,債権者への債務弁済の確実性を高めなければならない,(2)資本は容易に毀損,流出するものであってはならない,という要素をどのように考えるかで委員会の議論はヒートアップ。
結果として今回公表された市中協議案によれば,(1)については,「資本としてカウントされた行員が,損失発生と同時に所属する金融機関を離れて1年間猛烈に労働した場合に稼げる見込み金額を資本算入額とする」という考え方を採用。その結果,資本カウントされた人の技能等に応じて一人あたり最低100万円,最高2,000万円をTier1に計上できるものとした。どのような技能を有する者に対してどれだけの資本算入を認めるかは,案が確定した後に金融庁が告示で明らかにする予定だ。
また,(2)については,「資本とされた行員が通勤途上で交通事故に遭ったり,転職・脱走されたりするリスクを徹底的に排除する必要がある」との考え方から,原則として資本カウントされた行員は,銀行からの外出を禁止するものとした。これについては「人権侵害である」との意見も出た模様だが,「望んで資本となるのであれば問題ないのでは」との意見が大勢を占めた模様。

こうした案は年内にも最終確定する予定であるが,大筋で各国が賛意を表明していることから,前倒しで対応に着手する銀行も出ている。もっとも本格的な取組みを進めようとしているのがみすぽFG。公的資金の全額返済に向けて様々な取組みを進める中での新たな自己資本調達手段登場とあって,一も二もなく飛びつくこととなった。
同グループでは,傘下各行の行員約3万名全員を自己資本としてTier1計上する方針を固めており,行員の銀行建物からの外出を禁止する必要があることから,世界初の「全寮制銀行」として生まれ変わる方針を決めた模様。内幸町にあるみすぽ銀行本店では早速,会議室などを寮室に改装する工事に着手,既に2,000名分の寮を準備し終えた。
12畳相当の会議室に5段ベッドを8つ持ち込み定員40名の寮室にするなど,やや手狭な印象は否めないが,行員には「職住近接で通勤時間が省略できて便利」と結構好評だ。
行員とその家族は原則として別離生活となり,週1回,行内での面談が認められる予定。銀行建物から外に出ることが出来るのは90歳の「資本定年」を迎えてからとなるなど,長い銀行生活になりそうだ。


一方,経営側にとって気になるのは「行員3万名で合計いくらの資本を計上できるのか」という点。仮に全員が最高額の2,000万円と評価された場合,6,000億円のTier1増加要因となることから,金融庁がどのような判断を下すのか,情報収集に懸命だ。
関係筋によれば,金融庁は「銀行員が持っている『銀行業務検定・法務3級』のような資格・技能ではなく,即,カネになるような資格・技能を有していることが望ましい」と考えている模様で,「2,000万円に換算できる具体的技能・職業」としては「マグロ一本釣り」「傭兵」「不発弾処理」などが候補に挙がっている様子。
この情報を受けて,みすぽ銀行では早速,第一弾として行員のうち400名を青森県大間町にマグロ漁師見習いとして派遣し,また250名をフランス外人部隊に出向させる方針を固めた。新規制が適用される19年3月期までに行員全員にいずれかの技能を習得させる方針だ。
自己資本増強のために傭兵としての技術を磨き,90歳まで銀行店舗内に立てこもるという人生を行員が前向きに受け止めるかどうかは全く別の問題として,新たな自己資本戦略が今,着実に動き始めている。


なお,バーゼル銀行監督委員会では本案が確定した後,これを新規制の「第四の柱」(通称「人柱」)として位置付ける予定だ。