ユーロが日本を変える―欧州通貨統合の余波(2002年1月)


注:このコーナーは,1998〜2005年の「日本警戒新聞」に掲載されたバックナンバーの一部を紹介するものです。記事内容については他の記事同様,相当多量の偽情報および今日の状況に合わない情報が含まれていますのでお気をつけください。


2002年1月。欧州の通貨統合参加国では,新通貨ユーロの流通が本格的にスタートした。そして今,ここ日本でも新通貨ユーロが猛烈な勢いで流通し始め,経済に少なからぬ影響を与え始めている。今日は,この日本におけるユーロ流通の現実をレポートする。

東京・渋谷。数年前ほどではないにせよ,街を歩く中学生や高校生などの多さに辟易としてしまう街である。この渋谷は,「新奇好きの若者が集まる街」という認識をもった企業等により,これまで数々の新たな試みの実験場とされてきた。電子マネー地域通貨など様々な実験が行われてきたが,そのどれもが失敗に終わっている。しかし,その渋谷で今,猛烈な勢いで新通貨・ユーロが市民権を獲得しつつある。
きっかけとなったのは,女子中高生を主要読者層とする月刊誌「Cawaii!(カワイイ)」の昨年12月号の特集「ユーロってカッコイイ!」。この雑誌の読者モデルからスタートし,今や「ポスト叶姉妹」としてカリスマ度急上昇中の山岸姉妹(姉さおり・妹由紀)が「今夢中なモノ」として「ユーロ」を推薦。「ユーロってカッコイイよね。円の紙幣なんてもう笑っちゃう」と財布の中から一万円札を取り出しライターで火をつけて燃やしてしまう様子や,財布の中に欧州からいち早く取り寄せたというユーロ紙幣がぎっしり詰まっている様子が掲載されたことから,読者の間で一気にユーロ熱が広がった。
12月中は,なかなか手に入らないユーロ紙幣を巡り,渋谷で裏ブローカーらが1ユーロ=2,000円というでたらめなレートで女子高生らに売るといった事件も頻発したが,1月に入り欧州での本格流通が始まると,渋谷近辺の銀行にユーロ紙幣への両替を求める女子中高生らが長蛇の列を作るというこれまた異様な光景が出現した。
こうして有り金全てをユーロに換金した彼女らは買い物でもユーロを使用し始めた。当初は「円でなければ」と拒否していた店もあったというが,ユーロしか入っていない財布を見せ付けられると,これに応じざるを得ず,ここ数日でユーロでの支払を容認する店舗が急増してきている。本紙が確認しただけでも渋谷西武・東急本店および東横店・109の各テナント・マツモトキヨシ渋谷マークシティ内の各テナント等においてユーロが使えることが判明している。
このユーロ流通地域は渋谷にとどまらない。最近なぜか女子中学生の熱い注目を浴びている街・錦糸町や北千住でもユーロ流通が本格化しており,とりわけ前出の「Cawaii!」読者アンケートで「2001年・一番遊びたい街」第1位に輝いた北区赤羽近辺ではユーロの流通量が円の流通量を既に上回っているとの見方もあるほど,幅広い年代層にわたりユーロが浸透している。
こうした事態には日本銀行も重大な関心を寄せている。15・16日の両日に予定されている次回の政策決定会合では,速見総裁の提案により,ユーロブームのきっかけを作った山岸姉妹および実際にユーロを大量に使用している女子高校生10名程度に対して,臨時審議委員として出席を求め,議決権も付与することが内定している。
日銀では,ユーロの流通速度が円の20倍に達するなど,景気刺激効果が極めて高い点に注目しており,ECB(欧州中銀)との調整がつけば,政策決定会合で市中へのユーロ供給を促す政策を打出す可能性もあると見られている。
一方政府の関心も高い。福田官房長官は11日の記者会見でこうしたユーロ流通について当面容認する方針を明らかにするとともに,「民間企業も給与の一部をユーロで支払う等,景気回復に向けた努力を見せて欲しい」との注文をつけた。ただ,欧州通貨統合への参加については「まず国民全体のコンセンサスが必要な事項。現段階で言及するのは時機尚早」として慎重な姿勢を示している。

一方,ユーロ人気の陰で,日銀券の人気低落ぶりは日銀および財務省にとって悩みの種ともなっている。
特に人気の低い二千円札は一部の金券ショップで1枚500円程度で売られている等,惨澹たる有り様。かつて二千円札流通促進のために1枚1,900円で発売してみたり,「二千円札の美味しい料理法」まで公表したりした日銀は,今さら引っ込みがつかなくなっており,人気回復のために二千円札のデザインを20ユーロ紙幣そっくりに変更することを真剣に検討しているという。ECBではこうした動きについて「国家ぐるみで偽札製造まがいのことをするのは止めてもらいたい」と釘をさしているが,「もはや背水の陣」(財務省印刷局幹部)の状態であるだけに,日銀・財務省が「強行突破」する可能性も低くはないとみられ,今後の対応が注目される。