サラリーマン110番(44)松坂大輔獲得を命ぜられた私


<相談内容>


28歳のサラリーマン。A市内で5店舗を経営するパン屋の二代目として,社長たる父親のもと,日々修業に励んでいます。

今日午前11時ごろ,社長室に呼ばれ,社長と一緒に大リーグの試合を観戦しました。松坂・岡島の好投が寄与する形で見事,レッドソックスがリーグ優勝を決めてワールドシリーズに歩を進めた試合でした。

試合終了後,おもむろに社長が私に命じました。「これほどの男,我が社で獲らない手はない。至急渡米して,松坂を我が社に連れて来い」

100億円の男と呼ばれる松坂を,わずか5店舗のパン屋に引っ張っても意味はないと思うのですが,父は言い出すと絶対に引き下がらない男です。

どうすれば,松坂をパン屋である我が社に引っ張ってこれるでしょうか。



<回答>


美味しいパンが出来るかどうかは,パンの生地をこねる段階が大きく影響します。生地を台に叩きつけるようにしてこねていくと,非常に美味しいパンが出来ることが知られています。

おそらく,お父様はパンの生地を時速150km超のスピードで松坂投手に投げてもらい,これまでの常識を超えた「こね」を実現することを頭に描いているのだと思われます。

しかし考えてみてください。仮に,松坂投手に食パン1斤分の生地を全力で台に投げつけてもらい,この生地を上手に焼いて「松坂食パン」として売り出したとします。

世界の松坂が直接手にとって投げたとはいえ,日常的に食べるパンなので,どんなに頑張っても1斤あたり2000円の価格が限界だと思われます。

かつ,松坂投手の肩を壊さないには,せいぜい1日100球,いや100斤が限界でしょう。だとすると,1日当たりの「松坂食パン」の売上は20万円程度,ということになります。

1年間で7000万円強,100億円を売上高ベースで回収するには,約143年が必要です。松坂がどんなに肩を大事にして投げ続けたとしても,100年後の顧客が,170歳の老人が作る「松坂食パン」にそれほどの価値を見出すとは考えられません


それよりは,ベネズエラで頑張っている野茂英雄を日本に連れ帰ってはどうでしょうか。

直感ですが,パンの生地をこねるには,ストレートよりもフォークの方が向いている気がしてなりません。野茂を1億円程度の契約金で日本に連れ帰れば,充分ビジネスとして成り立つと思います。


父親たる社長の命令に従うのも大事ですが,いずれ経営を担う二代目なら,社長の命令を超える提案をぶつける必要があるのではないでしょうか。