経営者向け「スピーチ教室」がブームに−外来語増殖の影響か
注意:この記事には,現時点において事実ではない情報が大量に含まれています。記事中に登場する法人名・個人名等は実在のものとは一切関係がありません。その点をご理解のうえお読みくださるようお願いいたします。
経営者向けの「スピーチ教室」がここに来て静かなブームを呼んでいる。経営者が教室通いをする現状とその背景を追った。
近年,経営者自らが社内外に発信するメッセージの重要性がとみに高まっている。
閉塞感の漂う時代だけに,経営トップ自身が今後の方針や戦略を語ることで,社外からは信用を獲得し,社内では士気を高め,リーダーシップを発揮することが重要だとされている。
この経営者メッセージは,うまく発信できれば以上のようなプラスの効果を発揮できるが,舌が回らない(俗に言う「かむ」状態)等で言い間違うと,「付け焼刃で勉強したんだろう」「人の言葉の受け売りだ」などと誤解され,メッセージ全体の品格が落ちる事例が指摘されている。
まして,うろ覚えで誤った言葉を用いると麻生前首相の例は言うに及ばず,鳩山首相が国会答弁で「朝三暮四」の意味を間違って回答し赤っ恥をかいたように,場合によっては組織の信頼性にも関わりかねない致命的なダメージを引き起こすこともあり得る。
このような時代背景のもと,「難しい言葉を滑らかに発音する」「うろ覚えになりがちな言葉を正確に記憶する」ということをサポートするための経営者向けサービスが活況を呈してきているものだ。
2月下旬の金曜夜9時。
東京・品川の高層ビルの17Fで外国語教育大手のベルリッツが開催している「エグゼクティブスピーチセミナー」は,定員いっぱいの20名の経営者たちの熱気であふれている。
セミナーは,講師が力強く発音する「言い間違いやすい言葉」を,受講者全員で繰り返す練習から始まる。
「はい,全員で声をそろえて『セレンディピティ』!」
「セレンディティ!」
「セレンディティじゃない!セレンディピティ!」
「次!『サステナビリティ』!」
「サステナビリティ!」
「次,ユビキタス!」
「ユキビタス!」
「違う,ユビキタス!」・・・
受講者の一人として出席していた日本銀行の白川総裁は,自らの苦い経験をこう語ってくれた。
「先日の支店長会議で冒頭に私から挨拶をしました。緊張感の張り詰めた場だったのですが,あろうことか私が『プロシクリカリティ』という言葉をかんで『プロクリクリカリティ』と言ってしまい,3回も言い直しをした結果,何だか会議の雰囲気が一気にグダグダな感じになってしまって・・・。今後,あんなことがあってはならんという決意で,ここに通い始めたんです」
日本経団連次期会長に内定し,今後発言機会が大幅に増えることになる住友化学の米倉会長,近々米国議会で公聴会に呼ばれて厳しい質問を受けることが予想されるトヨタ自動車の豊田社長らも,真剣な顔でレッスンを受講している。
外国要人と会う機会も多い経営者が間違えやすい人名,会社名についても特訓が行われる。
「はい,イランの大統領は?」
「ア,アハーディネジャド」
「違う!アハマディネジャド!」
「ギリシャの首相は?」
「パパレンドウ!」
「違う!パパンドレウ!ハイ全員で!」
「パパンドレウ!」
「ドイツの製薬企業は『ベーリンガーインゲルハイム』!」
「ベーリンガーインゲルハイム!」・・・
うろ覚えになりがちな地名や地理についても厳しい質問が飛ぶ。
「ハイチの首都は?」
「・・・ボルドーフランス?」
「違う,勝手にイメージで思い込むな!ポルトープランス!はい!」
「ポルトープランス!」
日本人の9割が混同して記憶していると言われる「ドミニカ」「ジャマイカ」「コスタリカ」の位置や,「カザフスタン」「ウズベキスタン」「トルクメニスタン」の位置もきっちりと頭に叩き込まれる。
深夜0時。
3時間におよぶこの日のセミナーはようやく終了し,受講者らは疲れた様子で帰路につく。
なぜここまでしなければならないのか,という質問をある大手電機メーカー社長にぶつけてみた。
「社内の派閥抗争が厳しい当社では,私を追い落とそうと,社長としてのスピーチ原稿にわざと言い間違えやすい言葉を仕込む輩がいるんです。こんな罠にかかってたまるか!という一念で,教室通いをしているわけですよ」
この会社では,社長用の原稿がすらすらと読めるかどうかを事前に大声で試読する,社長と同年代の係まで置いており,社内では通称「毒見役」と呼ばれているという。
本当に必要なのは,自分自身の言葉で思いを込めて語ることであるが,難しいカタカナ用語が生まれ続ける限り,このスピーチ教室ビジネスに終わりはなさそうだ。