日警・大人のレストランガイド−キハチチャイナダイニングバー ルミネ横浜店


このコーナーは,年末年始の忘年会・新年会シーズンを迎えて参考になるお店を紹介するものです。若干紹介がヒートアップして事実に反することに言及することもありますが,まあ,8割引くらいの気持ちでお読みいただければ幸いです。


キハチチャイナダイニングバー・ルミネ横浜店の朝は早い。朝5時前には、300名を超える人間が続々と店内に入っていく。
この店の隣にマンション風の建物があるのに気づかれただろうか?B1階から1階まではこの店のスタッフが住み込んでいるのだが,2階以上のフロアには、実は客が住み込んでいる。そう,この店は,世界初の「合宿制中華料理店」なのだ。
この店を含む,キハチグループの総帥,熊谷喜八さんは,常々ある疑問を抱いてきていた。「我々は,お客さんに本当の我々の料理の実力を理解してもらえているのだろうか?」200品以上のメニューを用意しても,それぞれの客が注文するのはせいぜい7,8品。中には2,3品食べただけで「キハチっていうのもまあ,そんなに大したことないね」などと言い残す客もおり,これが熊谷さんのプライドに火をつけた。
「ならば,全品食べた上でキハチの実力を評価してもらおうじゃないか」そうして開店したのがこのキハチ・チャイナダイニングバー・ルミネ横浜店だ。熊谷さんのアイデアと,本場中国から呼び寄せた15名の一流調理師の腕が生んだこの店のメニューはグループ内最多の2,583品(11月14日現在)。これを全部食べきるまでは客を帰さないという,熊谷さんの強い決心が世界初の合宿制レストランというアイデアにつながったのである。
客の自由意思によりこの合宿に参加するのが基本であるが,熊谷さんが店内を巡回中に「何だ,大したことないじゃん,この料理」などという,客の不穏当な発言を耳にすると,有無を言わさず黒服の屈強な男たち4名により合宿所に連行されるという。現在合宿所に寝泊りしている客276名のうち,自由意思で入った者は2名,連行された者は274名で,後者の比重がやや高いようだ。
合宿所の生活は過酷だ。1日の食事回数は8回で,午前5時30分,午前8時,午前10時,午後0時30分,午後3時,午後5時30分,午後8時,午後10時30分にそれぞれキハチが総力を挙げて調理した料理が提供される。1回に提供される品数はおおよそ10品であり,1日あたり80メニューをこなすことになる。だが一方で,毎日平均で70以上の新メニューが開発されており,現在合宿中の客が10年以内に解放されるのはほぼ絶望的な状況だ。朝5時30分から酢豚やチンジャオロースを黙々と食べる客の姿には鬼気迫るものを感じるが,長期にわたる合宿生活のせいで,いずれも30kg以上体重が増加しているせいか,喜劇的な印象もあるといえば客に怒られるだろうか。
いずれにせよ,人生の残りの時間を有意義に使いたいのならば,決してキハチの店内で料理の悪口を言わないことだ。