日警・大人のレストランガイド−雑司が谷・割烹「大倉」


このコーナーは,年末年始の忘年会・新年会シーズンを迎えて参考になるお店を紹介するものです。若干紹介がヒートアップして,事実に反する説明も混じってしまうことがありますが,まあ,9割引くらいの気持ちでお読みいただければ幸いです。


雑司が谷の「大倉」。外観こそ,以前と同じ割烹風だが,今では世界にここしかないという「半導体料理」の店として世界中から客を集めている。
話は10年前にさかのぼる。日立・NECなど,半導体関連メーカーの経営者達が非公式に開催している「半導会」という会合がある。この会合でのテーマはいつも,「極めて変動の激しい半導体ビジネスで如何に安定した収益を上げるか」ということ。半導体ビジネスは,景気変動や技術開発の短期的サイクルで極端なまでの価格変動が発生するため,多額の投資を必要としながらリスクもきわめて高いビジネスとして知られる。とはいえ,「産業のコメ」とまで言われる半導体から完全に手を引くことはハイテク産業の代表的企業にとってはなかなか決断ができない選択だ。こうしたことから,「半導会」では,「半導体の用途を飛躍的に広げる方向で研究を進めよう」ということで合意,秘密裏に参加各企業の合同プロジェクトとして新用途開発を進めてきた。
その成果が実って,5年前に開発に成功したのが,世界でも全く類を見ない「食用半導体」。
「食品は,景気変動に大きな影響を受けることなく安定的な需要が見込める点で,我々ハイテク産業にとってはリスクヘッジ効果が高い」という発想のもと,研究を進め,ついに4M(メガ)のDRAMが最も食用に適していることを突き止めた。4Mは,DRAMとしては既に数世代遅れの「過去の遺物」的存在だが,「最新世代のDRAMは非常に小骨が多い魚を食べるようで食感が非常に悪く,かつ苦みも強い。4Mは,その柔らかい食感がソフトシェルクラブに似ており,また味は最上級のウニに似ている等,食品として申し分ない」(東芝・高梁直人主任研究員)点が高く評価された。その後,ビタミンの添加や食感の改良等,食品としての改善を加え,量産化のめどがつくに至ったもの。とはいえ,「半導体を食べる」という習慣が広く定着するには相当な時間を要すると考え,まずは実験的に半導体料理専門店を出店し,ここで客の反応を見ながら改良を進めていくこととした。
その実験店として白羽の矢が立ったのが「大倉」。当時,既に酒好き・食通が集う店として有名だった「大倉」が4年前に突然NECに買収され,半導体料理専門店として再オープンしたのが一昨年の3月。
毎朝「大倉」には,福島県や長野県のDRAM工場で生産したばかりの新鮮な4MDRAMが大量に届く。店長を務める太田貫一さん(NECから休職出向)は,これらのDRAMを試験装置も使わず一つ一つ自らの眼で吟味し,気に入ったものだけを客に出す。食品としての衛生面も,クリーンルームで製造されているだけに万全だ。当初は「半導体を食べるなんて」と,客数が大幅に減るなど苦い経験もあったが,太田店長の新メニュー開発等の努力が実を結び,昨年秋あたりからは予約なしでは入店出来ないほどの人気が復活した。
半導体の海鮮かき揚げ」「シェフの気まぐれ半導体サラダ」「半導体のお造り」「半導体雑炊」「半導体のココナッツミルクゼリー」等,全てのメニューに半導体が入っており,ここで一度食べれば人間が一日に必要とする半導体の量の約3倍を摂取できるという。半導体を原料とした「半導体焼酎」の開発も順調に進んでいるという「大倉」には,世界各国の半導体メーカー関係者も連日視察に訪れている。太田店長は,これまで「食用には不向き」といわれていた256M以上のDRAMの食用化の研究にも取り組んでおり,将来の展開が楽しみなところだ。