ドキュメント24時間・大晦日の蕎麦屋

本編は,私の妻の実家である蕎麦屋の昨年12月31日の24時間を記した実話です。テレビでは「年末の風物詩」扱いしかされない年越しそばの裏側をご紹介します。なお,NHKの「ドキュメント72時間」とは何の関係もないのでご了承ください。


(参考情報)
蕎麦屋の年末は12月31日だけ忙しいわけではありません。御用納めなどの日に職場の皆さんなどで蕎麦を召し上がる方も多いので,クリスマスを過ぎた頃からかなり忙しくなります。そのため,蕎麦店経営者は相当疲労が溜まった状態で大晦日を迎える,という点をご理解ください。


00:00

妻・義父・義母・義妹の4名が調理場入り。
そこで始まるのは,大晦日用の蕎麦つゆを作る作業です。暖房が入らない,寒い調理場の大釜に湯を沸かすところから長丁場が始まります。具体的な作り方は次のとおり。

  • 大釜(容量は50リットルくらい?)に湯を沸かし,そこに厚く削った鰹節を大量に入れ,あまり沸騰させないように20分〜25分ほどかけて一番だしをとり,二枚重ねた「さらし」でだしをこす。
  • 大釜を一度洗い(かなり大きいので,洗うのも一苦労),そこに計量した「上かえし」(蕎麦屋の基本ともいえる醤油ベースのつゆ;既に作って,寝かせておいたもの)を釜で沸騰直前まで温め(沸騰させると,醤油が焦げ臭くなるようです),先にとった一番だしに加え,これで基本のおつゆ,樽2個分(1個は20〜30リットル程度?)が出来上がり。ここまでで,約1時間経過。
  • また大釜を洗い,この作業をもう一度繰り返します。

道具が重く,液体の量も多くて熱々なのでそれらを持ち上げたり,おろしたりする作業がとても大変です。

02:15

二度目のつゆを取り終えて,一旦作業は終了しますが,引き続き二番だしをとる作業が始まります。これは,温かいお蕎麦を出すときの割りつゆや,丼モノ用のお味噌汁に使います。
二番だしは一番出しで使った鰹節でとります。約3樽分が出来上がります。

03:30

ようやくつゆ・だしの準備作業が終わり,次は生蕎麦を作る作業に入ります。作業では部分的に機械も使いますが,手作業も多いので短時間で大量にこなすのは困難です。

07:00

とりあえず当日分の必要最小限の生蕎麦の準備が終わりました。一睡もしないままに日の出を迎えます。

08:00

30分の仮眠後,本日の営業開始のため準備にとりかかります。仕事中に倒れないよう,ご飯などの炭水化物をしっかり腹に入れておきます。

11:00

お昼の部の開店時刻です。大晦日は開店と同時にお客様が続々と入店し,出前の電話もじゃんじゃん鳴り出し,いよいよ戦場状態の始まりです。来店のお客さんの注文を受け,蕎麦を茹で,具材と器を準備し,盛りつけを行い,出前の電話を受け,食べ終わったお客さんのお会計をし,出前にも出て,器も洗って,という作業を実質3,4人で分担します。
妻はてんぷら揚げを主に担当しましたが,注文が「天ぷら蕎麦」や「天ざる」に集中したため,結局1日で400尾程度の海老を揚げたようです。終日油鍋の前に立っていたせいか,右腕が低温火傷気味になっています。

15:30

なんとか,昼の部が終了です。来店客と出前を合わせると200杯を軽く超える蕎麦が出た様子です。17時の夜の部開始までの間,わずかな休憩時間に昼食を食べます。

16:50

息つく間もなく,夜の部が開始です。
既に開店前からお客様が並んでいる様子だったので,17時の開店時間を少し早めてのれんを出すと,駐車場で車の中で待っていたお客様も続々店の中に入ってきて,店内はたちまち満席になりました。蕎麦屋を始めて数十年になりますが,ここまで出足が早いのは滅多にありません。

17:00

開店後わずか10分で,店内客の注文に加えて「8人前」「10人前」「15人前」などの大ロットの出前注文が続々に入り繁忙度は早くもピーク状態に。なかなか注文がこなせず,出前注文先から「出前,まだ?」という電話が入り「もうすぐ準備が終わって出ます」という返事を繰り返すことになりました。「何だ,蕎麦屋の出前みたいな返事だな」と言ったお客さんがいたそうですが,そうです,蕎麦屋の出前です。

21:00

気付けば21時。この時間になっても来店客・出前注文とも絶えることなく続きます。曙が見事な惨敗を喫したことも,DJ OZMANHK関係者の背筋を凍らせる演出を行ったことも,知る由もないまま働き続けます。
21:30を過ぎるとやや注文が減ってきましたが,ほっとするのもつかの間,準備していた生蕎麦が無くなってしまい,追加で不足分を準備するというハプニングが発生。どれだけ売上が出るかを正確に予測するのは非常に難しいものです。

23:30

一同,疲労の限界に達し,22:15までの出前注文をもって店じまいとすることを決定,店内も22:30に暖簾をしまい,23:30にやっと長かった一日が終わりました。
ただ,この時間になっても出前の注文の電話がかかってきていました。いつもご愛顧ありがとうございます。来年からはもう少し早めの時間にお願いいたします。