「職住一体化プロジェクト」始まる−引越し・その光と影


注意:この記事には,現時点において事実ではない情報が大量に含まれています。記事中に登場する法人名・個人名等は実在のものとは一切関係がありません。その点をご理解のうえお読みくださるようお願いいたします。


抜本的なエネルギー消費抑制策として進められている「職住一体化プロジェクト」が首都圏の地図を大きく塗り替えようとしている。


物流や人の移動には,大きなエネルギーを必要とし,これを抑制することが温暖化対策の観点からも極めて重要であるとされている。
フードマイレージという概念でも語られることの多い農作物の地産地消は,温暖化対策のほか,流通ルート短縮で産地偽装等のリスクが小さくなるという点も含め極めて重要であると言われている。

一方で,わが国の都市計画が土地の用途区分を一つの軸として進められてきた経過から,オフィス・工場などの事業場と住居は特に大都市圏では遠く離れているのが通常で,通勤者の移動に多大なエネルギーとコストが費やされてきた。
職住分離には生活環境の維持等,一定のメリットもあるものの,現在では工場を含む事業場自体の環境基準も厳しくなっており,国策としての優先順位を勘案すれば,職住一体化を進めることで,人の移動そのものを劇的に削減することがより重要,との政府判断に基づき,今後10年間を費やす一大プロジェクトとして取組まれることになったもの。

現在,国土交通省などの指揮のもと,首都圏全域の企業およびその役職員を対象として大規模な引越し作業が進められている。今日はそんな引越しの一事例として,東京・大手町に本社を構える企業の動きを追った。


皇居に程近い地にそびえ立つ「りそな・マルハビル」(東京・千代田区)は,りそなホールディングスの東京本社とマルハニチロ本社が入居する地上24階建てのビルディングだ。

このビルでは協議の結果,どちらかが退去し,空いたスペースに残る企業の役職員と家族が入居することで話が決まり,抽選の結果,マルハニチロ側が退去し,全館をりそなが利用することとなった。
りそな側の「勝利」とも言うべき結果ながら,意外にも浮かない顔をしているのはりそなの職員たちだ。

同ビルで勤務する職員は全部で1,500名,その家族を含めると合計4,500名が,マルハニチロの退去で空いた12フロアのスペースで暮らすことになる。

1フロアあたり400名近い役職員とその家族が暮らすことになるため,1世帯当たりの占有面積はわずか3坪(約10?)。
少しでも占有面積を多くするため,隣家との壁は薄さ1mmのプラスチック板を採用,その壁も空調を効果的に共有するため床から高さ2mのところまでしかないという有り様だ。

ビル内に3箇所新設された共同浴場には,毎日入浴待ちの長蛇の列が出来ており,またトイレも慢性的に不足している。

調理場・食堂も共有のため,毎晩「夕食当番」が決められ,当番の30名で4,500名分の夕食を作っている。手の込んだ料理は作れないため,2日に1回はカレーが登場しているようだ。
また,食堂混雑緩和のため,一人当たり5分という時間制限の中,あわただしく夕食をかきこむ姿が日常化している。

「都心ど真ん中での快適な暮らし」を夢見ていた職員の家族の期待を大きく裏切る現実に,4,500名は言葉もない状態だ。

一部の家族はそんな暮らしに嫌気がさして,近隣の皇居内に無断でテントを設置,ここで暮らすという強硬策に打って出ている。
宮内庁からは「愛子様が『あのテント村はなあに?』と気味悪がっているので早くビル内に戻ってもらいたい」と苦情が出ており,りそなホールディングスではこれらの職員の説得に苦慮している模様だ。


一方,大手町の地を離れ,国土交通省の斡旋により埼玉県・長瀞に移転することになったマルハニチロ側の事情は大きく異なっている。

長瀞には大型の建物が無いため,入居することになったのは「旅館 清水館」「民宿ほりの」など,合計24軒の宿泊施設。これらの建物に関係部署ごとに分かれて入居する形となった。

入居先建物の大半が和室であり,「最初は畳の上で会議をしたりするのに戸惑っていた」(同社職員)ものの,入居から1ヶ月近く経った現在では「本音の仕事が出来る」とすっかり定着しているもようだ。
もともと宿泊施設であった分,役職員や家族らの居住設備も整っており,大手町のりそなとは「雲泥の差」(同社幹部)の生活環境が実現されている。

唯一の難点は建物が分かれているため移動が大変なことだが,長瀞名物の「ライン下り」を利用した移動手段が開発され,「荒れた川のしぶきでずぶ濡れになりながら社内会議に出かけるのもオツなもの」(同社職員)と,すっかり定着しつつある。


もともと水産業ということで水に親しみがあるせいか,職員の中には船頭としての素質を見出され,スカウトされる者まで出ている模様だ。


このような悲喜劇は首都圏全域で繰り広げられており,私生活と仕事のバランス(ワーク・ライフ・バランス)を真剣に考える契機となりそうだ。