ルポ 銀座・寿司革命

注意:この記事は,将来起こるかもしれない事件を妄想を交えて記したもので,少なくとも現時点においては全く事実ではありません。実在の人物・団体・事件等にも一切関係ありませんのでご注意ください。

「銀座で鮨」と言えばすなわち「高級」の代名詞。そんな鮨の名店の数々が今,大きく変わろうとしている。高級店の現場で何が起きているのか−意外な現実を紹介する。

銀座6丁目の「鮨 青木」。高級店の一角としてその地位を不動のものにした名店だ。夕方4時30分,暖簾をくぐって店内に入ると,早くもカウンターの8割程度が埋まっている。よくある光景,と言いたいが,普通の店と異なるのは,カウンターに座っているのが全員,小学生であること。毎週金曜日の4時30分から1時間程度,この席を占めているのは「兜町こどもクラブ」の子供達。慶応,青山学院,学習院など,名の通った私立小学校に通う3年生から5年生を中心とする,約10名のサークルだ。週1回の例会の話題はもちろん,その週の株式投資の成果報告と翌週の相場見通しだ。そもそもこのクラブが発足したのは1年半前。毎年,数十万円単位でお年玉をもらう子供達が,小学校で「株式投資の重要性」を教えられ,早速実践してみようと仲間同士で誘い合って投資を始めたのがきっかけだ。当初の平均投資額は1人あたり50万円程度だったが,ネット株取引ブームなどに乗る形で巨額の儲けを実現,その後追加でお年玉を投入した会員もいるため,現在では一人当たり投資額は平均1,400万円,グループ合掘では1億5,000万円を超えるという驚異のちびっ子投資集団だ。投資する株式も自動車部品から倉庫株まで,子供とは思えない玄人好みの業界にまで及んでいるほか,中国株はもちろん,パキスタン株にまで手を出す強者もいるという。
そんなクラブの例会は最初,ファミリーレストランで行っていたが,株式相場の見通しを熱く語る小学生を奇異の目で見る主婦らの視線に耐えられず,誰にも邪魔されずに食事を取りながら静かに議論できる場所,ということで銀座の鮨屋が選ばれたという。例会の最中,1人当たり6カンから7カンの寿司が出され,1人当たりの勘定は8,000円前後。これでも「小学生割引です」(笑)という店主の青木哲郎さんだが,「小学生とはいえ,ネタを見る目は確か。変なものは握れない」と毎週金曜日は緊張するという。
議論がどんなに白熱しても必ず5時30分には店を出る。「だって,常連さんや同伴出勤の人たちが入ってきて,小学生が寿司食べてると不愉快でしょ」と,会長の佐々木英輔君(仮名:10)は妙に醒めた口調で話す。しかし「それに,家に帰って夕食食べないといけないから,あまりたくさん寿司を食べるわけにもいかないんです」と語る姿はなんだか殊勝さを感じさせる。愛読誌は「BRIO」「小学3年生」「日経マネー」,好きなネタは「旬の白身」(佐々木君)だというこの子供達の将来がやや心配だ。

鮨の名店同士の合併という現象も起き始めている。一般企業では近年,ガバナンスの強化,顧客の信頼性の維持・確保などのために要する管理コストが急上昇するという問題に悩まされており,管理コスト削減の観点から経営統合等の選択を行う企業も少なくない。鮨屋などの飲食店でも事情は似たようなもの。毎年厳しくなる一方の衛生管理基準をクリアすることや,客に提供する食材の安全性確認・生産地表示など,経営に要するコストは上昇の一途をたどっている。このような環境におかれた鮨屋の判断は,一般企業と同じで「経営統合や合併による管理コストの削減」。その第1号として注目を浴びているのが,いずれも銀座を代表する名店として知られる「すきやばし次郎」と「久兵衛」の合併だ。新店「次郎と久兵衛」として開店した同店は,実に35mという長大なカウンター席を誇る。左半分が旧「次郎」,右半分が旧「久兵衛」の職人が握るエリアだ。合併新店ならではのおまかせメニュー「次郎と久兵衛食べ比べセット」(18カン,2万5,000円〜)は毎日40名以上の客が注文するという人気ぶりだ。両店がその伝統・プライド・作法をそのまま持ち込みつつも,流儀の異なる鮨が同じ店で楽しめる点がかえって顧客を楽しませており,合併後の客数は合併前の両店合計を大幅に上回って推移しているという。
この人気にはテレビ局も早速目をつけており,日本テレビは次郎と久兵衛の半生を描くドラマ「にぎり。をプロデュース」で大ヒットした前作の再現を狙う。前作同様,ジャニーズ系の若者2名を主役に据える予定で,期間限定ユニット「次郎と久兵衛」が歌う主題歌「板前アミーゴ」も早速完成,「今年のレコード大賞はこれしかない」と早くも自信満々だ。

高級店では極めて珍しい「大食いチャレンジ」を始めたのは,近年急速に評価を上げている銀座8丁目の「鮨 水谷」。4時間で240カンを完食すれば無料,ただし1カンでも残せば30万円という,高級店ならではのスリリングな料金設定だ。「4時間で240カン?それくらいなら全然問題ないよ」という大食い自慢も多いが,当店のミソは,職人が240カンを1個1個手作りで順番に出していくところ。「鮨は芸術。手を抜いたりすることはできない」という当店のポリシーのもと,大食いチャレンジをする客の前に立つ職人が,1分で1カンのペースで,丁寧な仕事を施した鮨を出していく。しかし,この丁寧かつゆっくりとしたペースが曲者。NYのホットドッグ早食いチャンピオンとして有名な小林尊氏は,その自伝「ホットドッグと俺」(集英社刊)で大食いのポイントを「自分が満腹であることに気付く前にどれだけ喰えるか」にあると指摘する。1時間に60カンという,大食いにはゆっくり過ぎるペースで鮨を出されると,どんな大食漢でも2時間で満腹中枢がストップをかけ,仮に3時間180個を乗り切ったとしても,最後の1時間,延々と続く60本のァンピョウ巻攻撃でギブアップするという。既に60名の大食い自慢がチャレンジしたが全員失敗,これだけで1,800万円もの売上を記録している。ただ,他店はさすがに追随を控えており,当分の間は「高級大食いチャレンジ鮨」は「水谷」の専売特許になりそうだ。

老舗として有名な「新富寿し」。寿司業界から初のプロ野球参入をめざし,楽天に対してイーグルスの経営権譲渡を申し入れ,現在本格交渉に入っているという。店主の新橋富三郎さん(65)に尋ねてみた。
−なぜ,寿司屋さんがプロ野球なんですか?
「銀座の寿司と言えばすっかり高級なものになってしまいました。でも本当は,気軽に立ち寄り,手早く食べる食い物なんです。銀座の寿司に対するイメージを変えて,いろんなお客さんに来てもらうには親しみやすさが一番。そこでプロ野球に目を付けたんです」
−なぜ銀座なのに仙台の楽天イーグルスを?
「本当はジャイアンツがいいんです。で,当店常連のナベツネさんにお願いしてみたんですが,烈火のごとく怒られてしまいました(笑)。で,いくつかの球団に声をかけてみたら話に乗ってきたのがイーグルスだったというわけです」
−どういうチームにしますか?
「寿司の親しみやすさを広めるための経営ですから,当然ながら,全選手の登録名は寿司ネタに変えてもらいます。『1番,センター,コハダ』『2番,セカンド,エンガワ』なんて感じがいいですね。カツノリは『イワノリ』あたりでいいかな。正統派の鮨ネタじゃないけど(笑)」「現役引退した選手には,当店の職人として活躍してもらいたいと考えています。現役時代からキャンプなどでは寿司の握り方もしっかり教えていきたいと考えています」
−選手の年棒は払えますか?
「難しいところだけど,いざとなれば現物支給でいきます。エースの一場なら,青森の大間産本マグロ20本,とか」
実現するかどうかにわかには信じ難い話だが,とりあえず行方を見守る必要はありそうだ。