日警・大人のレストランガイド 銀座コリドー街・土風炉(とふろ・居酒屋)


このコーナーは,年末年始の忘年会・新年会シーズンを迎えて参考になるお店を紹介するものです。若干紹介がヒートアップして,事実に反する説明も多数混じってしまいがちですが,まあ,9割引くらいの気持ちでお読みいただければ幸いです。


世の中には特殊な業界人が集まる居酒屋が多数存在する。ここ「土風炉」銀座コリドー街店は,日本でも最大級の「虚無僧のたまり場」として有名な店だ。
夕方5時の開店前,貴方も銀座コリドー街をうろうろする虚無僧達の姿を見掛けたことがあるはずだ。托鉢を求める彼らに付き纏われ,数寄屋橋交番に駆け込んだという記憶をお持ちのかたも少なくないだろう。そう,彼らはいずれもこの「土風炉」の開店を待ちつつ,暇つぶしに托鉢をしているのである。
この店が彼らのたまり場になったのはそれほど昔のことではない。
この店の常連であるTomさん(通称)とKennyさん(通称)は,かつて丸の内,大手町,日本橋兜町といったビジネス街を托鉢のテリトリーとしていた。しかし97年頃,金融危機の影響で収入が激減,食い詰めた時期があった。やむを得ず彼らは「流れ虚無僧」としてテリトリー外の銀座までやってきた。一般には知られていないが,銀座は虚無僧の激戦区で,彼らのような流れ者は袋叩きに遭うのがオチ。しかしそんな彼らに,「生ビール1杯無料券」を差し出したのが,当時開店したばかりの土風炉のバイトのAさん。彼らは涙を流して喜び,生ビール一杯とお通しの枝豆を食べ終わると,せめてものお礼として他の客の前で尺八演奏を披露,これを喜んだ店主の誘いで何度も来店しているうちに,次第に虚無僧仲間のたまり場になってきたのだという。
一時は泥酔した虚無僧が尺八で一般客を殴るなどの事件もあったが,今ではマナーのいい虚無僧ばかりになり一般客も安心して利用できるという。
この店のルールとして知っておく必要があるのが,「一般客は必ず虚無僧と相席になる」ということ。虚無僧との会話や尺八演奏を楽しみ,最後に彼の飲食代を一般客が喜捨するというのがマナーだ。
「虚無僧とサラリーマンがどんな話をすればいいのか」とご心配の向きもあろうが,これは全くの杞憂だ。この店に出入りする虚無僧の大半は托鉢で鍛えた話術で話題も豊富。お店に入ると一般客と虚無僧の盛り上がる歓声でうるさいくらいだ。まあ,虚無僧によるホストクラブと思えばいいだろう。
最近は虚無僧によるショータイムも充実してきている。メインはやはり尺八の合奏だが,レパートリーも結構幅広い。昨年の12月24日には,虚無僧30人による「クリスマスイヴ」(山下達郎作曲)が演奏され,夜空に響き渡る尺八の音でコリドー街を騒然とさせたという。
普通に生きると,人間,なかなか虚無僧との接点は持ちづらいもの。そんな貴重な経験をさせてくれる店として,この店は虚無僧と一般客の両方に愛され続けている。夜7時以降は予約した方が無難だ。また,20名以上の団体客には虚無僧のお出迎えサービスがつくから楽しみだ。