経営会議で「文字使用禁止」−ユニクロが前代未聞の挑戦

注意:この記事には,現時点において事実ではない情報が大量に含まれています。記事中に登場する法人名・個人名等は実在のものとは一切関係がありません。その点をご理解のうえお読みくださるようお願いいたします。


企業にとって,社員間のコミュニケーション・ギャップを小さくすることは,生産性を向上させるうえで避けて通れない,永遠の課題だ。
グローバル展開を進める企業が,社内公用語として英語を採用するのも,そうした問題への回答の一つだ。ユニクロを運営するファーストリテイリングは,本邦他社に先駆けて社内公用語の英語化を決断した企業のひとつだが,「まだ不十分だ」と会長兼社長の柳井は厳しい表情を崩さない。
そんな同社が「次元を上げた挑戦」として,社内公用語を廃止,今後すべてのコミュニケーションはビジュアルイメージのみで行うと発表した。まずは経営会議で文字の使用を禁止することから始めるとしている同社の,取組みの背景と苦闘を追った。(文中敬称略)


2月26日午前7時。東京ミッドタウンにある同社東京本部会議室では,直径8mの巨大な円卓を囲み,新たな経営会議の初回が始まろうとしていた。
柳井が合図すると,第1号議案の説明が始まった。
出席者の目の前にある大型ディスプレイには一切文字は出ず,英国の国旗をはじめとする数枚の写真や幾何学模様が映し出された。そして同時に,提案者であるユニクロUKの平林泰二が起立し,おもむろに円卓の上に乗ると中心部で身体をくねらせた後,くるくる回って円卓から滑り落ちた。
そう,第1号議案は「業績が不安定な英国ファストファッション事業の一部売却について」で,平林はディスプレイと自らのダンスにより,議案の内容を説明したのだ。


柳井は説明が終わったのを見届けて,出席者に無言のまま意見を求める仕草を見せた。
出席者である坂森は手を挙げると,おもむろに臼と杵を持ち出し,勢いよく餅をつき,出来立ての餅を思い切り長く伸ばした。坂森の動きを「もっと長い目で見るべきだ」と解釈した柳井は,無言でうなづき賛意を示し,他の出席者も同様に首肯した。
しかし,坂森本人の意図およびその他の出席者の理解は,「ファストファッションの販売を止めて,日本の餅を売るべきだ」という,非常に直裁なもの。こうして,柳井の意図とは全く異なる形で,英国のユニクロ各店を餅屋に業態転換するという経営判断がわずか5分でなされた。

その1週間後,英国ユニクロがリニューアルオープンするというニュースリリースを見て,はじめて誤解があったことに気付いた柳井。リリース文には,オープニングイベントのゲストに餅つき芸で人気の芸人「クールポコ」が呼ばれていることも記されており,思わず「やっちまったな・・・」とつぶやく柳井だった。


同社がこうした失敗にもかかわらず,敢えてチャレンジするのは,「世界100カ国以上で事業展開するためには,言語の壁を破る必要がある」という事実があるからだ。
社内公用語を英語にするという方針は,事業展開国数が30カ国程度までは極めて有効だと言われているが,これを超えると,英語に全く馴染みの無い文化圏に足を踏み入れざるを得なくなる。
公用語を増やすことで対応する考え方もあるが,翻訳コスト等も飛躍的に増加することから,究極の公用語として「ビジュアルイメージ」を用いることを決断したのだ。


同じ絵や動きを見ても,人により解釈の仕方が全く異なるのは,経営会議で既に経験したとおり。文化圏が異なれば,このギャップはさらに拡大する。
そのため,同社では社員のコミュニケーション研修をさらに強化することで,この壁を乗り越えようとしている。
「対象物を表現するのではなく,相手の心に直接働きかけろ!」
厳しい叱責の声が飛ぶのは,東京・青山のとあるダンススタジオ。ユニクロの店長ら32名に特訓を施すのは,前衛舞踏集団として歴史を重ねる山海塾のメンバーだ。メンバーに倣い,白塗り姿で特訓に励む店長らは汗だくになりながら,「抽象的な表現こそが心にダイレクトに響く」という境地に到達するまで終わらないこの合宿研修に取り組み続けている。
スタジオの外には,同じく白塗り姿になり,彼らの成長を見守る柳井の姿もあった。

失敗の積み重ねの先に「コミュニケーション・フリー」な世界が広がる,と信じて疑わない柳井の目線は遠くを見ている。
日本企業の将来を大きく左右することになるかもしれない,この挑戦から当分目が離せそうにない。